柴田元幸『翻訳教室』は「日本語力」向上におススメです

2017年06月14日 | 
 柴田元幸『翻訳教室』を読む。

 2004年10月から2005年1月にかけて東大で文学部で行われた柴田氏の翻訳の授業を、ほぼそのまま採録したもの。

 私は外国語の話が好きなので、こういう翻訳関係の本もよく読むのだが、さすがは名訳者として誉れ高い柴田先生、実に読ませる(聞かせる)講義を行うものである。

 これを読むと「翻訳」というのが、われわれのイメージする「英文和訳」とはかなりちがうものであるということがわかる。

 ふつうなら英語の本など読むとなれば、意味をざっとつかむのだけでも苦労するが、ここではその先の、そのまたさらに先まで進んだ話をすることとなる。

 「意味を取った文章を、どう料理するか」が本題。

 ポイントは、「英語力よりも日本語力」。特に文芸翻訳は単にタテのものをヨコにするだけではつとまらないが、ここで大事になるのが日本語の力と、言葉に対するアンテナの張り方。

 助詞のひとつも、あだやおろそかにしない、繊細な、言葉へのこだわりが読んでいて実に心地よい。

 「listen」は「聞く」なのか、それとも「聴く」なのか。英語独特の反復表現によるリズムを、日本語でも踏襲して訳すべきなのか。

 作者が意図する悪文は、読者に「読みにくい」「訳が下手」と思わせる危険があっても、それにならうべきか。英語の「you」は人間一般を指すために訳さないのか、それともあえて「君」とすべきか……。

 などなど、漫然と読んでいるだけではなかなか伝わってこない、訳者たちの苦労の後が、これでもかとかいま見える。

 もう、先生と生徒のキャッチボール、その一投のたびに、「なるほどー」と思わず感嘆すること請けあい。これを読むと、外国の本を読むときに、「厚み」というものが出るようになるはず。一行一行を、あたらおろそかにはできなくなる。

 また、翻訳に興味はなくても、この本は「日本語教室」としても、たいそう質の高い内容となっている。

 「助詞の反復をいかに避けるか」

 「気付きにくい重複表現」

 「句読点の使い方による、文章のリズム」

 などなど、それこそブログやツイッターをやっている人でも、読んでいてためになること間違いなし。

 これまでよりも、少しばかり自分の文章を大切にあつかおうという気になります。

 ものすごく高度なんだけど、文は平易で読みやすい。しかし、中身はズッシリ詰まっている。

 読了後は、ちょっと頭が良くなった気がする、すぐれものの一冊。そんなに高度な英語力はいりません、良質な知的興奮を味わいたいときに、ぜひどうぞ。



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