長谷川和彦監督『太陽を盗んだ男』はボンクラ映画界のレジェンド

2017年09月02日 | 映画

 ボンクラ映画というジャンルが存在する。

 世に恋愛映画、コメディー映画、社会派映画、SF映画、ホラー映画。

 などといった分け方のある中、そのうちのひとつとして

 「ボンクラ映画

 というのがあるわけだ。

 リア充系の皆様にはピンとこないかもしれないが、これは思ったよりもたくさんあるもので、監督がオタクとか、主人公が引きこもりとか、ヒロインが気ちがいとか、客層が痛いとか、予算が悲惨とか。

 果てはカルト化したり、ときに何の因果かアートとカン違いされたり、影響を受けたヤツが大統領狙撃したり、まあそういった作品。

 要は、カップルで見に行くと、残念なことになるような映画のことです。

 代表的なところでは『タクシードライバー』とか、『燃えよドラゴン』。

 『マトリックス』とか、『髪結いの亭主』とか。

 あとはスタイリッシュに見せて『レオン』もなかなか。『新世紀エヴァンゲリオン』もそうですね。

 などなど、あげていくとキリがないのだが、数あるボンクラのボンクラによるボンクラのための映画の中で、昭和の邦画代表といえばこれではないだろうか。

 『太陽を盗んだ男』。

 長谷川和彦監督、主演は沢田研二

 ジュリー扮する中学教師は、独身で、冴えない毎日を送っている。

 そんな彼は、ある日東海村にある原子力発電所に侵入し、プルトニウムを強奪。

 そして、アパートの自室で、なんと手作りの原子爆弾を完成させてしまうのだ。

 太陽をつかんでしまった男は、ライオンのついたプールで死んでいたが、太陽を盗んだ男はお家で原爆

 おいおい、そんなNHKの工作講座みたいに、さくっと作っていいものか。それもマニファクチュア

 なんだかジュディ・ダットンの『理系の子―高校生科学オリンピックの青春』みたいだぞ。

 そういやあ、自分の知り合いにも、趣味で爆弾作っていた人がいたなあ、なんて昔のことを思い出していると、ジュリーはその原爆を使って、なんと日本政府脅迫しはじめるのである。

 彼が政府に伝えた第一の要求とは、



 「テレビ局に言って、巨人戦のナイター中継を試合終了まで放送させろ」



 まずここでスココーンとこけそうになるが、ジュリーは本気も本気である。

 原爆を作って、政府を脅すというとんでもないことに手を出してはみたが、いざ命令を出すとなると、特に思い浮かばずナイター中継の延長。

 いや、気持ちはわかるが。試合がいいところなのに、途中で切られたら腹立つもんねえ。

 もう、この時点で、

 「ボンクラ映画に、認定する」

 ボンと大判を押して上げたくなるようなステキな展開。



 「科学の粋を集結し、ついに透明人間になる事に成功した男がまずすることは、女子更衣室をのぞきに行くこと」



 というのを、たっぷり予算を投じ、最高級CGを使って表現した、ポールバーホーベンに匹敵するナイスさである。

 というと、なんだかものすごくアホげな映画のようだがさにあらず、これは、



 「世の中に対して情熱や怒りを持った者が、たとえその手に巨大な力を手に入れても、結局やりたいことなどなにもないのだ」



 という、若者の空虚な心をあらわしているエピソードなのである。

 たまにニュースで、通りでナイフ振り回して捕まって、

 「なにか大きいことがしたかった」

 とかいう少年犯罪者があつかわれていたりするが、それに似た空っぽさは、世の「怒れる若者」には、どこか身につまされるものはあるのでは。

 これに味を占めたジュリーが、次に要求したのが、



 ローリングストーンズを来日させろ」



 とんだ、わがままファンである。

 今で言えば、クリントイーストウッドを呼んできて、『踊る大捜査線』のリメイクを撮らせろとかいうもんであろうか。

 ストーンズに来日コンサートをさせろと無茶な(当時は)命令したジュリーだが、これには警察も、マスコミなどを巻きこんで

 「ストーンズ来日決定」

 というウソ情報を流し、犯人を油断させるという作戦に出る。

 いくらインターネットのない時代とはいえ、そんなもん通じるわけはないと思うのだが、ニセの新聞記事を読んでジュリーはご満悦

 すっかり、だまされている。

 このあたりがいかにもボンクラというか、どうにも憎めないところではある。ちょっとは警戒しなさい。

 そうして、にはまったジュリーは、彼を追う刑事である菅原文太とビルの屋上で直接対決をむかえるのだが、この場面がまあ、ボンクラ映画史上に残る名シーンなのである。


 「おい、ストーンズは本当に来るんだろうな」

 

 文太に念を押すジュリー。

 文太はそれにしばし沈黙し、そして、やにわにかけだすとジュリーの胸ぐらをつかみ、一身にはき出すような、すさまじい大声で叫ぶのである。


 「ローリング・ストーンズなど、来ん!」

 
 ふつうに書くと迫力がないが、この場面の文太は、まさに鬼気迫るおそろしい声でジュリーにせまっている。

 やはりこの映画を強く推す、大槻ケンヂさんのエッセイ『オーケンの、私はヘンな映画を観た!!』から借りれば、この場面の文太のセリフは、

 「ローリング・ストーンズなど、来ん!」

 ではなく、こうだ。



 「るおおおおおりんぐすとおおおおおんずなど、くうおおおおおおおおんんんん!!!!!!!」



 ではもう一度、リピート・アフターミー。



 るおおおおおりんぐすとおおおおおんずなど、くうおおおおおおおおんんんん!!!!!!!



 これです、このド迫力。ステキです。さすがはトラック野郎だ。

 この、邦画史上に残るジュリーと文太の、一対一の対決がこの映画の最大の見所なのだが、そこは実際に作品を見て楽しんでいただきたい。

 『太陽を盗んだ男』。まさに男のための熱いボンクラ映画。

 でも、バカ映画ではないですよ。ちゃんとした、日本映画史に残る名作です。見て損なし。


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