カルカッタより愛を込めて・・・。

コルカタより桜咲く日本に帰ってきました。

10ルピー札。

2017-04-20 17:44:37 | Weblog

 シアルダーには何も食べ物を受け取らない小柄な男性がいた。

 彼はいつも独りだった。

 友達などはもちろん居ない、それゆえ話す相手もない、彼の言葉は一度も聞いたことがない、いつも木の枝を持ち、何かと闘っているのだろうか、それを振り回しているか、何かに叩き付けているか、また路上で寝ころんでいた。

 彼が食べ物を口にしているところさえ、一度も見たことがない、良く大きな木を枕にするようにして寝ていた、その姿はその大きな木が母のように彼を見守っているようにさえ見えた。

 何度も食べ物を渡そうとしたが、いつも受け取らなかった。

 一度警官が10ルピー札を彼に渡しているのを見た。

 その警官もいつも汚い洋服を身にまとい、独りでいる彼を不憫に思ったのだろう。

 私はそれを見て以来、彼が10ルピー札なら受け取ることを知り、彼に会う度、10ルピー札をあげることにした。

 お金自体をあげることをボランティアのなかにも疑問視する人もいたが、私はいつも言った。

 「彼はいつも独り、怒りに満ちていることが多い。食べ物も受け取らない、ならば、10ルピーで酒を買おうが構わない。彼がそれで酔えるのであれば。誰から何かを受け取る関係が持てるようになれば」と。

 彼に10ルピー札をあげることが最良のことかは分からない、ただ受け取ってくれるものがそれしかなかった。

 ならば、そこに思いを込めて、祈りを込めて、行けば良いのだと思った。

 何も受け取らないから、相手にもしない、話し掛けもしないのとは大違いだと思った。

 いつか彼が弱った時にはケアをさせてくれることを祈り願いながら、彼を見かけると、すぐに10ルピー札を渡せられるように胸ポケットには入れた。

 彼が良く寝ていた大きな木はシアルダーのディスペンサリー近くにあった。

 いつからか、彼はそこで良く寝るようになった。

 それは私を待っているかのように。

 そして、ほんとうに印象的だった、大きな木が彼を見守っているかのようだった。

 彼は大きな木の根元を枕して安心しきって良く眠っていた、何かそれはとても幸せそうにすら見えた。
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