やはりカレーは足らなかった・・・、それも50人ぐらいもカレーをもらえないおじさんたちがいた。
流石におじさんたちもこれは酷いとその場で怒り出す人もいた、列の後方にいた小指を詰めていたおじさんももちろんカレーをもらえなかった。
行き場のない怒りを抱えたおじさんたちが様々な思いでカレーを食べているおじさんたちを見ながら、その場から立ち去って行った。
私はひたすら謝るしかなかった。
近くの公園では指を詰めていたおじさんが折り畳みの椅子を広げ座り、スポーツ新聞を開いていた。
その折り畳みの椅子にはドリンクフォルダーがあり、350のスーパードライがあった。
まず謝らなくてと思い、近くに行き、謝った。
「もっとちゃんとしないとダメだよ。今日はいくらいくら持って来て、あとはありませんとか言わないと。ビール飲む?」
「いや、良いよ・・・、飲まないよ」
「全部で4本持ってきた。あれ、奴はいないかな?キムチと梅干持ってきたから」
「ほんとうに今日は申し訳ない・・・」
「いま、笑った・・・?真面目な話しをしているのに、笑うなんて、そんな人間性だからダメなんだ。もう来ない。そんな人間性の人がやっているんだったら、来ないよ」
彼は私が笑ったように見えたらしいが、そんな笑えるところではなかった、私はもしかしたら、この人に殴られるかも知れないことも覚悟していたくらい、真剣に謝っていた。
しかし、それがどうにも伝わらなかった。
「いや、笑ってはないけど、そう見えたのなら、ほんとうに申し訳ない・・・」
それからずっと彼は怒りをスポーツ新聞を広げ、ビールを飲み、吐き続けた。
すると、私のなかの悪魔が出て来た・・・。
声に出さなかったが、悪魔が囁き始めた。
「周りの人たちとは違う、いつも身なりの良いカッコしているし、お金もあるんでしょ。この前なんかは競馬で40万勝ったと言っていたじゃない。雪駄も一万ぐらいはする良いものを履いていたし、それに出会ってから、ずっと私のことを「先生、先生」と言って慕ってくれたし、一回の過ちでどうしてそこまで言うの?もっと困っている人たちはたくさんいるのに。おじさんはここに来なくても大丈夫でしょ・・・」
私は悪魔の囁きを聞きながら、ここで悪魔に呑み込まれ、感情的に反抗することは決してならないことであると、もっともっと真摯な態度を取ろうとした。
そうしながら、濁りきった私の心を問い始めもしていた。
私は私が目の前の彼を傷付けたにも関わらず、私はそれを忌み嫌い、否定されれば反抗し、相手を逆に裁こうとしていた、その弱さを全身に電気が走り渡すように感じた。
彼の怒りは私の悪魔そのものであることに気が付いた。
彼と私に何の違いもないことを感じた。
いつも先生と慕われていたのであれば、彼の怒りをも引き受けることこそ、意味深いものではないかと思えるようになった。
ただやはり痛む、未熟な心の弱さは感じていたが、私は決して悪魔の囁きを喉元から出すことを許さなかった。
もう一人の私がその代りをしているのであるから。
私は感情的にはならず、謝りに謝った。
もう彼は来てくれないかも知れないと思いながらも、彼がなぜここに来なくてはならなったのか、その意味、その孤独を私から手放すことをしてはならないと思いながら。
マザーの祈りのことを考えた。
祈りにすがったそのマザーの祈りは、あの「最良のもの」をである。
『あなたの中の最良のものを』
人は不合理、非論理、利己的です
気にすることなく、人を愛しなさい
あなたが善を行なうと
利己的な目的でそれをしたと言われるでしょう
気にすることなく、善を行ないなさい
目的を達しようとするとき
邪魔立てする人に出会うでしょう
気にすることなく、やり遂げなさい
善い行ないをしても、おそらく次の日には忘れられるでしょう
気にすることなく、し続けなさい
あなたの正直さと誠実さとが、あなたを傷つけるでしょう
気にすることなく正直で、誠実であり続けなさい
あなたが作り上げたものが、壊されるでしょう
気にすることなく、作り続けなさい
助けた相手から、恩知らずの仕打ちを受けるでしょう
気にすることなく、助け続けなさい
あなたの中の最良のものを、世に与えなさい
けり返されるかもしれません
でも、気にすることなく、最良のものを与え続けなさい
最後に振り返ると、あなたにもわかるはず
結局は、全てあなたと内なる神との間のことなのです
あなたと他の人の間であったことは一度もなかったのです