指揮者

ーー泣けばよかったな。
　　かっこつけないでイジケりゃよかった。

そういう時こそ
一世一代の見栄をはる。

おかげで
失いたくなかった人や時間は消えてしまうが
何回も何回も冬を越えると
あの時の自分に少しあたためられる。

ーー悪くないな。

そう半分嘘をつく。
それが自分。

失った人間は
妙に優しくなって小さくなる。
目の前でジョッキを握ってる
このワカゾーもそうだ。

ポテトフライ1本摘んだ指は
コンダクターのようにそれを振り
弄んだ挙句、半分かじって終わり。
また曲が始まる。

長い曲だった。
泣ける曲だった。

いい曲だった。

人に弱さを見せるのがうまくなかった自分と違って
コイツはありったけの感情を演奏した。
時折感極まりながらもタクトを振り切った。

　　羨ましいよ。
　　そんな風に・・・

アホ丸出しだったので
口にすんのはやめて
生をおかわりしてガチンと乾杯して

ーーじゃんじゃん飲もうぜ。

って言ったら
やっと笑った。

すげー眩しい笑顔だった。


狼一号
壮根精華素