『無題』
男と女・・・。
男は薄っぺらで描かれた音符も低く単調なのに対し、女は豊満であり、音符も豊かな調べを奏で新しく樹の枝を再生させている。
背景は白く上方は黄色めいている、つまりここは現世ではなく、死後の世界である冥府かもしれない。
現世とは立場を違える二人、女は逞しく生命論理の変革をきたし、男は静かに佇むのみで、現世の有体を引きずった山高帽・コート・靴などの暗示がある。
場所は特定できないが、平らであり囲い(フェンス)がある広いテラスといった趣きには、豊かで無風の平安・平和を感じることができる。
「お母さん!」
亡母に会いに行く自分を夢想しているのではないか。
名付けようがない、誰も入り込めない静謐…『無題』とするほかなかった密会のシーンである。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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