続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『喜劇の精神』

2016-11-28 06:50:13 | 美術ノート

 『喜劇の精神』

 人を笑わせながら、人生の真実を表すという精神。
 人の形をした薄い紙状のものには、折り畳んでで刻みを入れた孔が各所無数にあり、本来、起立は困難である形状にもかかわらず立ちポーズである。

 物体を通して向こう側が見える、透明ともいえる存在である。
 刻まれた形状は、明らかに人為的な工作の跡であり、この物が人為的な傷(艱難辛苦)を受けても尚立ち向かう姿勢を表している。生きることで自ずとできた苦渋の傷跡かもしれず、また生きた証であり、誇りを含む喜怒哀楽の複合的な形跡かもしれない。
 経験値である。

 そのものが傾斜のある坂を下ろうとしているのか、上がろうとしているのかは不明であるが、そのものの影を見ると床面で途切れている。つまりバックは安全な壁ではなく、故知らぬ虚空である。したがってこの者の立っている場所が非常に危険な断崖絶壁である可能性も否定できない。
 まるで安穏に見える立ち位置も一瞬先の危機を孕んでいるということである。

 喜劇の精神は確かに潜んでいるが、実態は見えない。
 淡い希望(バックの彩色)、土着の存在基盤(床面の彩色)の中の吹けば飛ぶような量感の薄い存在、仮の時空の幻影のような存在が『喜劇の精神』のあり様だと言っている。


(写真は新国立美術館『マグリット』展・図録より)


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