続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

デュシャン『秘められたる音』

2016-10-24 06:22:32 | 美術ノート

 『秘められたる音』

 《ネジ留めされた真鍮板で挟まれた紐の玉》とある。
 真鍮の板で挟まれている・・・圧迫、圧制。
 挟まれた紐の玉・・・拘束、不自由。
 紐の玉を擬人化して観察すれば上記の様な感想を抱く。即ち、苦境の叫びが秘められているということになる。
 四方に解放の出口は開けられているが、上下からの圧迫で身動きできない。これは社会への風刺だろうか。重く強固な真鍮版に比して、紐(縄)は軽く劣化が著しく速い。強者に対する弱者の構図とも言える提示である。

 しかし、デュシャンは語らない、あるがままを感受すればそれでいいという冷徹な眼差しである。
 見る側は、鈍重な対応でこれに対する判断を出しかね迷走する。重苦しく役に立たない工作に対し、疑念から憤怒に至る者も少なくないと思う。

 はっきり対象物を見せているにもかかわらず、抽象的な見解しか導き出せない。答えに正解がないからである。
 しかし、物は物の質感・置かれた状況によって言葉(雰囲気)を醸し出す。作家の創意は物の持つ特性に感情移入されるので、ことさら作家自身のコメントは不要なのである。

 二枚の真鍮版に挟まれた紐の玉、拘束されているとも保護されているともいえるこの関係、この構図に、音が秘められているという。
 聞こえない音を聞く、物理的な音波ではなく心理的な振幅である。精神の深淵に共鳴する音を感受せよと言っているのであり、無の中に有(音)を感じるということである。


(写真は『マルセル・デュシャン』美術出版社刊)

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