挽歌 ~十六夜焦がす五山送り火

2005年08月16日 | 京都 ‥こころのふるさと
 夏は河原の夕涼み 白い襟あしぼんぼりに
 かくす涙の口紅も 燃えて身をやく大文字
 祇園恋しや だらりの帯よ
 (「祇園小唄」より)

 灯かげ涼しき加茂川に 祇園ばやしも遠のいて
 月にささやくふたりの胸を こがす想いの大文字
 (「京小唄」より)


 山とも空とも見分けのつかない闇に燃え上がる「大」の字が、十六夜の月をも焦がす京の夏の夜‥、二〇〇二年八月十六日夜、五山送り火は漆黒の闇に沈む千年の都を照らし続けました。

 午後8時10分、「妙」「法」点火─ 山々に浮かび上がった達筆の二文字は、みるみる勢いを増して山ごと迫ってくるように見え、ことさら暑かった夏に思いを馳せます。
 5分後、「舟形」「左大文字」の点火─ 冥土への道を迷うことのないよう、不滅の灯明のごとく精霊たちの帰路を照らします。つづいて「鳥居形」点火─ 中世以降、虚空をただよう数知れない死者の霊と生者の祈りがひとつになります。
 送り火とともに京都の夏の暑さは和らいでゆくそうです。精霊を送る灯に、わたしたちの祖先への畏敬の念を想起せずにはいられません。死者とともにすごし、一夜の送り火のもと心安らかに冥府へと帰っていただく。五感の夏にふさわしい都の盂蘭盆会です。

 すこしずつ火勢を弱め消えゆく灯に、誰もがひと夏の終わりを感じたことでしょう。‥ふり返ると、東の空には十六夜の美しい宵月がかかり、山を下るわたしたちの足もとをわずかに照らしていました。


※ 写真は京都の Kさん からいただきました。有難うございました。
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8 コメント

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京都人よりも (橘 正弘)
2005-08-17 21:35:52
京都人らしいエントリにー感心しています。「京都の人は、本当の京都のよさを知らない」とも言われておりましたが、納得いたしました。

これからもよろしくお願いします。
十六夜 (小鳥沢)
2005-08-17 21:54:10
今年も、テレビのニュースで見ましたが、読ませていただいて、京都の盂蘭盆会の情景を想像しています。

高槻に6年も住みながら、見に行きませんでした。

私のページを紹介してくださり、ありがとうございます。
五山の送り火 (ふーちゃん)
2005-08-19 00:59:31
トラックバックありがとうございました。



今年は今まで以上に大文字山へ執着しております。

はじめは五山の送り火の撮影も予定にはなかったのですが、撮ったというよりも撮らせてもらったというのが率直な感想です。

来年は撮影ポイントにもこだわってみたいです。



本格的に大文字山登山をはじめたのは今年の1月。

今年中に100回登山をしたい。

大文字山は花鳥風月温かく包み込んでくれます。

TBありがとうございました (lestrois)
2005-08-19 10:41:54
TBありがとうございました。

送り火の山の明かりは、心を温かく包みこんでくれるようです。

京都の夏を彩る、この送り火が終ると、夏の終わりが見えてきます。

またブログ拝見させていただきますね。私のブログへも遊びに来てくださいね。
五山送り火 (芦田 健)
2005-08-19 10:49:00
TB感謝です。



子供の頃暮らした京都に東京から戻ってきて来て10ヶ月、暑いのには閉口しますが伝統や行事の奥深さに触れれば触れるほど、何物にも変えがたい日本の宝だと思います。
TBおおきに (姐奴)
2005-08-19 15:01:24
京都には火を用いたお祭りが多いですが、

その中でも「五山の送り火」は格別です。

眺めていると、とても不思議な気持ちになります。

これも、虚空をただよう数知れない死者の霊のせいでしょうか。

他のページも拝見しました。

また遊びにきたいと思います。

今後ともよろしく!
本当に (京都検定ブログ人)
2005-09-24 16:30:02
京都は日本人の心のふるさとですね。五山送り火、何回見ても感動しますね。私は小さい時、「妙法」の字の近くで育ちました。大も好きですが、近くで見る「妙法」の字には強烈な印象があります。では、失礼します。
京都検定試験 (雪月花)
2005-09-26 14:33:48
はじめまして。京都の方からコメントをいただけてうれしいです。有難うございました。少々ヒマで眠いので、今日はオフィスのPCから‥



京都検定試験の公式テキストブック、手もとにございます。東京で公開試験がないのが残念なのですが、このテキスト、受験勉強を思い出すような実に退屈なものだったので、少々がっかりしています。いざ受験となりましたら、ぜひ貴サイトを使わせていただきます。



旧「雪月花」(ブログでなくホームページでした)のころ集めた豊富な寺社・庭・花等の写真とエッセイをもとに、日本の文化の中心・京都の美しい感性をすこしずつ載せてゆきますので、よろしければまたいらしてください。ちなみにわたしの好きな場所は、北山・東山周辺、花背、鴨川、京都御苑。時代なら中世、幕末♪です。関西はまだまだ残暑が厳しいようですね。ご自愛ください。