夕焼け金魚 

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つまらない人

2017-07-08 | 日記
入居していたご夫婦の旦那様が亡くなりました。
家具職人の方で、無口で仕事一筋の無骨な方でした。
家具の会社からは後輩の方々が来て、腕のよい面倒見のよい旦那様だと褒めて行かれたのです。
葬式も終わって親戚の方々も帰られて、奥様がひとりだけ家に残られていました。
気落ちされていると思って話し相手にお伺いしたのです。
「会社の方々も見えられて、盛大なお葬式でしたね」
「仕事一筋の方だったから、それは本望だったでしょうね。でも、私には冷たい夫でした」といわれるのです。
ご夫婦仲は傍目にはよく見えたのですけど、奥様はそうでもなかったようです。
「夫婦生活なんて寂しい物でしたよ」というのです。
奥様の話だと旅行に行きたいと言っても仕事だと言うばかりで、これと言った思い出もないそうです。
腕はよかったようで、会社でもそこそこ利地位があったようなのですが、慎ましやかな生活で贅沢と言えば、週末にお寿司屋さんに言って好きなトロをほう張る程度だったそうです。
「あの人にとって、私は何だったのかと思います」といって涙ぐむのです。
聞けば預金もほとんどなくて、これからどうしようかと思案に暮れているというのです。
遺品整理もままならないというのでお手伝いさせていただきました。
職人気質で机と言っても何も無いのですが、本棚にノートがびっしり置いてありました。
「何が書いてあるのですか」と聞くと「知らない」といわれました。
「それは仕事のノートだからいって絶対に見せてくれなかった」そうです。
どんなことが書いてあるのかと一番最初においてあるノートを開きました。
日付があって、一目でこれは日記だと分かりました。
「奥さん、これは大変なものですよ、詳しく見るのは私は控えさせていただきます」といってノートを奥さんに渡しました。
奥様はしばらくページをめくっていましたが、涙ぐんでそのうち声を上げて泣き出したのです。
最初のページには日付と奥様の名前が書いてありました。
「本日、親からお見合いの話があった。全く興味なかったが写真見て気が変わった。すげぇ綺麗な人だ。こんな女が俺の嫁になると思ったら信じられなかった」と書いてあったのです。
「本日、お見合いの日。本当に写真の人が来るのか心配で親に聞いたら間違いないという。でも、俺みたいな処に来る女なんてヘチャムクレの女でないと来ないと思っていたのに、あんな綺麗な人が来るなんて、何かの間違いか、何かあるのじゃないかと思う。でも、何でも良いから嫁に欲しい」
こんなことがほとんど毎日のように書かれているのです。
「本日、あいつが美容院で髪型を変えてきた。スゲェ綺麗になってどこかの女優かと見間違えるほどで、できれば綺麗だ綺麗だと一日中言っていたかったが、無口で誠実な男のためにはグッと我慢していた。無口な男って大変だぞ」とも書いてあったのです。
お見合いの日、奥様が無口で誠実そうな方でよかったと仲人の口から聞いたので、奥様の前では一生涯無口で誠実そうに見えるように緊張していたのだそうです。
病気が分かった時も慌てて入院しても、手遅れだと分かったので入院しなかったそうです。
「あいつに残る俺の最後の姿が、病院のベッドの上で唸っている姿だと思うと恥ずかしくて入院などできるか」と書いてありました。
奥様に嫌われたくない為に、精一杯、無口で職人気質の姿を演じていたようです。
もちろん、後日、信託銀行からまとまったお金があることの通知が来たそうです。


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