
いよいよ股旅物もこれで終わり。ずっと錦之助の旅人やくざのことばかり書いてきた。ほかにも良い作品があるじゃないか、と言われるかもしれないが、誰がなんと言おうと私は錦之助のやくざが大好きなのだから、仕方がない。もちろん、信長もいいし、武蔵もいいが、まあ、それはいずれ書くとして、今回は、股旅物でまだ記事を書いていない最後の作品、『浅間の暴れん坊』(1958年)について語らせていただきたい。
この映画のビデオを私はこれまで五、六度観ている。錦之助が二十六歳の時の出演作で、彼が乗りに乗っていた頃の映画である。東映スコープ総天然色で、印象も鮮やか、観ていてスカッとする娯楽版の股旅映画なのだが、この作品を取り上げて褒める人がほとんどいない。それを私は残念に思う。後年の傑作と言えるマキノ雅弘の『弥太郎笠』(1960年)や長谷川伸三部作『瞼の母』(1962年)、『関の弥太ッペ』(1963年)、『遊侠一匹 沓掛時次郎』(1966年)を絶賛する人が多いのは当然だと思う。また、加藤泰の『風と女と旅鴉』(1958年)と沢島忠の『股旅三人やくざ』(1965年)も素晴らしい映画だ。もちろん、その評価に私はまったく異論をはさむつもりはない。が、『浅間の暴れん坊』という映画も、錦之助の股旅物では捨てがたい佳作である。もしかすると、旅人やくざを演じた錦之助がいちばん魅力を発揮しているのはこの作品ではないかと、ひそかに私は思っている。
この映画を観るのに小難しい理屈は要らない。錦之助が演じる浅間の伊太郎を見つめてほしい。格好良くて、輝いているとは、このことだと納得するだろう。髪型(前髪のある風来坊タイプ)、衣装(着物を三度着替えるが、すべて似合う)、立ち姿、歩く姿、すべて良い。もろ肌脱いだ刺青姿もサマになっている。もちろん、セリフ回しも、セリフを言うときの表情も良い。立ち回りも溌剌としてチャンバラの最上級レベルに達している。そして、何よりも観客は、うっとりしながら、伊太郎に感情移入できる。伊太郎とともに、怒り、悲しみ、憐み、苦しめばよい。母を慕い、娘に恋し、人を助け、悪者を殺せばよい。浅間の伊太郎は、やくざから足を洗い、堅気になりたいと願っている心の優しいやくざである。無力な堅気の人には親切の限りを尽くす。しかし、この親切心がアダになる。
この映画、中盤から俄然面白くなる。巡礼親娘(薄田研二と丘さとみ)と出会い、傷を負った年老いた父親を救おうとして、狡猾で女好きな悪い親分(山形勲)のところに世話になってしまう。この親分には囲い者にしている女(長谷川裕見子)がいて、巡礼親娘と伊太郎はこの女の家に逗留する。ここから、ラストまでの話の展開が面白い。純情一途な丘さとみの猛烈な愛の告白があり、しっとり落ち着いた長谷川裕見子の心に滲みる思いやりがある。そして、伊太郎の母親役の夏川静江に胸を打たれる。情愛のこもった、さりげない演技が味わい深く、なんとも言えぬ名演ぶりなのだ。夏川と錦之助は『瞼の母』でも絶妙の共演を見せるが、この映画の二人も実に良い。田舎家で干し物をして黙々と働いている母親を伊太郎が眺める場面は、目に焼きつく。また、ラスト・シーンで、母親の夏川が伊太郎の長脇差を抱えて、必死で追いかけるところなど、胸にじーんと来る。
『浅間の暴れん坊』は、村松道平がオリジナル脚本を書き、河野寿一が監督した作品である。河野寿一は、錦之助をいかに格好良く見せるかということをいつも考え工夫していた監督だった。『青年安兵衛』『晴姿一番纏』でも、そうだったが、錦之助の登場シーンは、初めいつも笠で顔を隠し、錦之助に二言三言セリフを言わせてから、さっと笠を取るといった味な演出をする。観客から「待ってました!」と声がかかるように登場させるのだ。それと、スピードある立ち回りが特徴である。また、回数も多く、30分に一回はある。
『浅間の暴れん坊』では、伊太郎は四度の立ち回りで三人も悪親分を叩き切る。が、圧巻はラストで、丘さとみを救うため悪親分(山形勲)の家に駆けつけ、大暴れするシーンであった。部屋全体のセットを庭の側からセミ・ロングで捉え、錦之助が刀を振り回し、ばったばったと斬り倒す様子を坪井誠が得意の移動撮影で映し出していた。しかもそれだけでは収まらず、戸外に逃げる山形を錦之助が追いかけ、祭り見物の群衆がたくさん居る通りの中を突っ込んでいく。最後は、山車(だし)の上で、山形を叩き切るのだが、ここまでのシークエンスの迫力とスピード感が見事だった。ぜひご覧になってほしい。
この映画には、端役だが若い大川恵子が出演している。あでやかな着物姿で、美しい彼女も見ものだった。また、長谷川裕見子の亭主役に片岡栄二郎が出ているが、私の知る限り彼のベストだった。親分から女房を奪い返し、二人で駆け落ちするのだが、伊太郎が親分への恩義から長谷川の目の前で片岡を斬り殺してしまう。ここはこの映画のハイライトでもあった。
音楽担当は高橋半(なかば)で、音楽がいかにも東映調で入れ方もうまい。途中のつなぎの場面でディック・ミネの主題歌が二箇所挿入され、最後も歌で締めくくる。これがまた良かった。ディック・ミネの特徴であるビブラート、あの哀愁のある歌声が旅路を急ぐ伊太郎のバックに流れる。メロディも歌詞も良く、映画が一層引き立ったことを付け加えておこう。
<追記>
*ディック・ミネの主題歌の歌詞は、以下の通り。
1.肩に合羽の一本刀 義理と情けに
男を賭けて 投げた賽の目二つ道
履いた草鞋の はいた草鞋の三度笠
2.女心を背にうけて はいた草鞋に
義理の風 男の命の一人旅
涙かくして 涙かくして どこへ行く
3.男一匹 意地の道 恋に生きよか
仁義に死のうか 抱いた長どす旅枕
浮世流転の 浮世流転の三度笠
4.瞼あわせりゃ 堅気になると
泣いて誓った旅の空
あの娘恋しや 母いとし
男伊太郎 男伊太郎 どこへ行く











観に行った映画。残念ながらすっかり中身を忘れているのです。大方50年前のことだから仕方ないですね。その後はファン復活後に見ましたが、背寒様の解説を読むうちにもう一度観なければと・・・今週中にみれるかな。
股旅物は、錦ちゃんの着こなしが抜群ですね
どのように言い表せばいいかわかりませんが、
あのですね…見どころは、衣装ですよ。初めは、薄茶の縦縞で、すぐに黒白の細かい格子柄の着物に着替えます。で、裕見子さんの家に逗留中は、薄紫の着物に茶系のどてら着ています。あと、合羽の着こなしもイイですよ。色付け映画のために工夫した衣装でしょうが、それまでの股旅物はすべてモノクロでしたからね。こういうお色直しなかなか見る価値がある。
あと、カメラワークに注目です。加藤泰顔負けのロー・アングルもありますよ。下からあおるように撮った錦ちゃんの顔のアップが確か二箇所あります。このカットの入れ方を見てください。また、本文には書きませんでしたが、山形勲が丘さとみを手込めにしようとする最後のシーンが迫力満点。カメラを斜めに傾けて撮っているんですよ。鴨居が傾斜して見えますから…。撮影は坪井誠ですが、沢島・加藤両監督の特長をうまく活かしてます。
それと、この間書いたこの文、ちょっと訂正しました。山形勲が叩き切られるのは、「神輿」ではなく「山車」の上でした。正確に書かないと、いけませんからね…。では、またご感想ください。
我家のテレビの老化現象で折角説明
いただいたのに色合いを充分満足して見る
ことはできませんでしたが、
解説のおかげで見逃さずに観れたことに
感謝でした。
なんの屈託もなく観れる娯楽映画ですが、
撮影の運びや、ロケ地の景色や、音楽や、
かつらや衣装のことまでに及ぶと、また
異なった想いをもって見ることができますね。それは娯楽作品として、良い作品であったと
いうことになるんでしょうね。
何かの本に錦之介様が、大作と言われる
映画は、準備を充分にして制作の予算も
とられてあるけれど、娯楽作品は日数も短て、気を使うとおっしゃっていたのを読んだこと
があります。
大作と大作の合間に、娯楽作品にも出演され
た経過を見ると、どのような作品にも、
大切に臨んでおられたことに想いを馳せる
ことができますね。 最後に映画の主題歌の
ことを書いておられますが、
この主題歌はレコードになっていたので
しょうか。昔の股旅物には主題歌が必ず
あったような・・・
耳を傾けて、メモってみました。
歌詞が間違っているかもしれませんが・・・
1.肩に合羽の一本刀 義理と情けに
男を賭けて 投げた賽の目二つ道
履いた草鞋の はいた草鞋の三度笠
2.女心を背にうけて はいた草鞋に
義理の風 男の命の一人旅
涙かくして 涙かくして どこへ行く
3.男一匹 意地の道 恋に生きよか
仁義に死のうか 抱いた長どす旅枕
浮世流転の 浮世流転の三度笠
4.瞼あわせりゃ 堅気になると
泣いて誓った旅の空
あの娘恋しや 母いとし
男伊太郎 男伊太郎 どこへ行く
2番と3番は、娘のとめるのを振り切って
旅にでて、利吉を探し旅をする間に、
流れた歌ですね。
母親が洗い張りをしている姿を遠くから
眺めて去ってゆく場面は、堅気とやくざの
節度をわきまえているんですね
どの場面もよかったけれど、26歳の青年
錦ちゃんを見ている間は、こちらも
年を忘れていますよ、と言いたいけれど、
忘れてないのかなぁ、昔と違って
親の側の気持ちで見ていたりするから・・・
『浅間の暴れん坊』は、どうしん様の言うように、何の屈託もなく観れる娯楽映画です。『若き日の次郎長』もそうですが、水を得た若魚みたいな錦之助がいいんですよね。ピチピチして、明るくて。『恋風道中』と『風と女と旅鴉』とこの映画の錦之助は、若いエネルギーが充満している感じで、私は好きですね。
どうしん様は、夏川静江の気分になっちゃったみたいですね。枯れてきましたか?私は、まだまだ錦ちゃんからエネルギーをもらっています。
歌詞間違っていたら、ご勘弁を・・・
今度は「恋風道中」を観たいなと思ってます
こうして”カキコ”ですか、書いて送信すると
皆さんが書かれた様に、整然とならずに
途中で改行になったりして、私のだけ見苦しいのは、何が原因でしょうか、お教えくださいませんか。
私のブログでは、見てくれは気にしませんから、お好きなようにカキコしてください。