錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『浪花の恋の物語』(その12)

2017-05-16 00:41:58 | 錦之助ノート
 何度か錦之助に会ったことのある小山編集長は、錦之助のことを「明るくて、ざっくばらんで感じのいい青年」と褒め、久我美子と同じように「きっとネコちゃんも気に入るよ」と言ってくれたが、こればかりは実際会ってみないと分からないと有馬は半信半疑に思っていた。いや、それよりも、あっちが自分のことを気に入るかどうかも問題である。だいたい、自分は久我ちゃんみたいに誰にでも好かれるタイプの女性ではなく、気が強いためどうも人当たりが悪く、思ったことをぶっきら棒に言って、人に嫌われてしまうことがある。このほうが心配だった。やはり、親しくしている俳優と対談したほうがずっと気が楽なのであるが、それでは対談に新鮮味がないし、あまり面白くないのかもしれない。もうこうなったら、初対面の錦之助に嫌われようが構わず、突っ込んだ質問をズバズバして、はらはらするような対談にしてやろうと、ようやく有馬は度胸を決めたのだった。
 対談の仕事ではいつもカジュアルな服装が多い有馬であるが、この日は初対面で独身男性の錦之助に会うということで、ちょっとおシャレをして、淡いグレー地にえんじ色の線模様が入った新調のツーピースを着ていた。トルコ石のイアリングを付け、化粧はほとんどせず、口紅を薄く塗っただけで、素顔に近い。それでも目千両で顔立ちの整った有馬は飛び切りの美人であった。

 錦之助が三浦波夫といっしょに現れた時、さすがの有馬も胸が高鳴った。三浦はずっと有馬の写真を撮ってきたカメラマンで、有馬も親しくしていた。その三浦が有馬に目配せしながら、待たせた詫びを言った。
 スーツ姿の錦之助は襖の前に正座して、両手をつき深々と頭を下げて、挨拶した。有馬もあわてて、座布団から下りて畳の上に正座し、挨拶を返す。
 互いに顔を上げると目と目が合った。わずか二、三秒の間だったが、二人とも無言のまま食い入るように見詰めあった。有馬は素顔の錦之助に獅子丸一平の顔を重ね合わせ、目の前にいるホンモノがスクリーンで見た美少年と同一人物だとは信じがたい思いに捕われていた。一方、錦之助はきょとんとしている有馬を美人だけど奇妙な表情をする女性だなあと思っていた。
 有馬が頭を掻きながら、言った。
「ヤだ、どうしよう。実物の錦之助さんって映画と全然印象が違うんで、頭が混乱しちゃった!」
 戸惑う有馬に、錦之助はにっこりと笑い、
「じゃ、止めちゃいましょう、このへんで」
 と言って腰を浮かせたので、二人は大笑いになった。
 有馬が床の間の前の上座に錦之助を座らせて、対談を始めようとすると、三浦が口を挟んだ。
「初めに写真を撮っちゃいましょう。僕は社に帰って、今日撮った写真を現像しておきたいんでね」
 そこで、早速、二人揃っての写真を撮ることになった。
 三浦が有馬に注文を出した。
「ネコちゃん、錦ちゃんと握手してもらえませんか」
「いいけど、ファンが怒るんじゃない」
 と有馬が言うと、すかさず錦之助が言った。
「かまいませんよ。だけど、嬉しいなあ、有馬さんの手を握り締めてきたって、みんなに吹聴しちゃおう」
 そこで、錦之助と有馬が仲良く寄り添い、固く手を握り合っている証拠写真と相成ったわけである。(つづく)



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