錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『おしどり駕篭』(その一)

2006-06-11 04:03:18 | 町人

 『おしどり駕篭』(昭和33年1月公開)のことを書こう書こうと思っているうちに、月日が経ってしまった。書きたいと思うネタばかり多くなって、頭の整理が付かなくなってしまったのだ。この映画、私は封切りで観た記憶はない。初めて観たのは十数年前だった。その頃、マキノ雅弘の自伝『映画渡世・天の巻・地の巻』を読んで、この映画に関心を抱き、早速ビデオを借りに行った。この映画を観て、大変面白いと思った。その頃、美空ひばりが亡くなったばかりで、世の中ひばりの追悼ムードだった。ひばりの本も多く出版され、そのうち何冊かは私も読んだ覚えがある。大下英治や竹中労のひばりの評伝があり、宗教学者の山伏哲雄のひばり論もあった。その後、マキノ雅弘が亡くなり、錦之助が亡くなった。
 『おしどり駕篭』のことはずっと私の頭の片隅にあったのだが、あえて再び観ないでいた。先月、ようやくDVDを購入した。再見して、またその面白さに驚き、錦之助とひばりの心の通い合いに打たれた。しかし、しばらく、この映画はそのままにして、ほかの共演作を観ていた。その間、神田の行きつけの古本屋で、『おしどり駕篭』の初稿の脚本を手に入れた。東映の内部に配るガリ版刷りの稀少本である。この脚本を読んで、またDVDを観た。それで、やっとこの映画について語りたい気持ちが湧いてきた。今回は、相当細かいことにも話題が及ぶかもしれないが、錦之助の映画を語るうえで、この映画は非常に重要な作品なので、その点お許し願いたい。
 
 まずは、この映画の率直な感想から言うと、これほど豪華で楽しい娯楽作品もなかなか無いのではないかと私は思っている。いかにも古き良き時代の映画と言おうか、ともかく東映全盛期に製作された一級の娯楽時代劇だった。脚本・監督ともマキノ雅弘、撮影は三村明、音楽は米山正夫、美術は桂長四郎。助演者は中村賀津雄、中原ひとみ、月形龍之介、杉狂次、山口勇、桜町弘子である。私は、錦之助とひばりが共演した映画(八本あるうち、ひばり主演が半数)では、五作目のこの映画がいちばん好きだ。二人の良さが存分に発揮された作品だと思うからである。
 『おしどり駕篭』は、本当の意味で、東映をしょって立つ大看板になった錦之助と戦後最大のタレントで人気絶頂の美空ひばりという二大スター競演の映画であった。これまで、錦之助はひばりと共演すると、どうしても食われてしまう印象があり、錦之助本人もそれを気にしていたようである。錦之助の昭和29年のデビュー作『ひよどり草紙』(最近私はビデオで初めて観た)は仕方がないにしても、『おしどり駕篭』の三年ほど前に二人が共演した現代劇『青春航路・海の恋人』(昭和30年)の中でも、ひばりの存在感にはどうしても錦之助が負けてしまう感じだった。錦之助はひばりより五歳年上だったが、キャリアの点からもスター性から言っても、この当時はひばりの方が数段上だった。しかも、ひばりは姐御肌なので、この頃繊細で気弱に見えた錦之助がひばりの引き立て役になってしまった。
 が、『おしどり駕篭』が制作された頃には、錦之助も子供向けの美剣士役から脱皮し、一人前の大人の男優として急成長の途上にあった。この映画のクランク・インは昭和32年12月4日で、錦之助が二十五歳になったばかりだったが、今の言葉で言えば、錦之助はスターとしてのオーラを発散していた。そして、ひばりに十分対抗できるだけの自信と力量も蓄えていた。

 この映画は、一種のラブ・コメディである。ただし、欧米風のラブ・コメディとはまったく違う。日本的で、江戸前のラブ・コメディである。錦之助とひばりの間にロマンティックな雰囲気はない。うっとりするようなラブ・シーンもない。この映画の中の二人は掛け合い漫才のようである。お互い惚れ合っているのに、好きだと言えず、「おかめ」「ひょっとこ」と呼び合って口喧嘩ばかりしている二人のやり取りがコミカルでほほえましいのだ。この二人を見ていると、なぜかとても幸せな気分になる。この映画で、錦之助とひばりは互いに共演を心から楽しんでいる様子がありありと分かる。それが画面からひしひしと伝わってきて、こっちまでウキウキと楽しくなってくる、そういう映画である。男優と女優の共演で、こうした雰囲気をかもし出せるペアは他になかったと思う。二人とも地でやっているなーと感じるのだが、誰でも地を出せば良いというわけではない。地を出したからといって、魅力を感じない人もいる。それがたまらない魅力に思えるのは、映画俳優という以前に人間的な大きな魅力がなければならない。スターとはそういうものだ。
 こういう映画を観ると、間違いなくスターの映画だと思う。スターと言っても、小粒なスターが狭い画面でチマチマ恋愛の駆け引きをやっているのではない。錦之助もひばりもスーパー・スターである。二人とも数ある戦後スターの中でも突出した存在だった。俳優とか歌手とかいった範疇を超え、一個の人間としての大きな魅力を振りまく恒星のような存在だった。この二つの恒星がぶつかり合うのだから、輝きが倍加したことは言うまでもない。(つづく)


ジャンル:
映画(DVD)
キーワード
マキノ雅弘 美空ひばり ロマンティック 月形龍之介 中村賀津雄 中原ひとみ
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