崖下を見下ろすと目もくらむような高さだった。
スカートのすそがばさばさと風に揺れる。
今さらながら私は自分が高所恐怖症であることを思い出した。足がすくんでしまうのが我ながら情けなかった。
ここに来るまで迷いなんて少しもなかったのに。
あと一歩。あと一歩でいい。ほんのあと一歩。
「飛び降りるつもりですか?」
男の声に私は本当に驚いた。
ついさっき辺りを見回したときは誰もいなかったのだ。
振り返ると男が一人立っていた。これといって特徴のない顔に人のよさげな笑みを浮かべていた。
「違いますよ、どれぐらいの高さがあるのかなぁと思って、覗き込んでいただけです」
ぎこちない笑みを返し、そう私は下手な言い訳をした。
私の答えになるほどと頷きながら、男は一歩私に近づいた。
「確かに人は高いところに登るとどうしても下を見たくなってしまうものですよね。足がすくむのはわかりきっていることなのに」
男は私の横に立つとそーっと首をめぐらして下を覗き込んだ、と思う間もなく、ヒョェ!と短く叫び声を上げて後ろに飛び退った。
「ダメです、絶対にダメ。実は自分は高所恐怖症なんです。いつかは克服できたら、と思ってはいるんですけど、でもダメです」
男は傍目から見て気の毒なほどぶるぶると震えながら、もう少し崖の淵から離れませんか、と私に提案した。
考えてみればおかしな話だった。男のことなどさっさと無視して飛び降りてしまえばよいのに、なぜか私は素直に男の提案に従った。
私たち二人は手近にあった二つの岩に向かい合うように腰を下ろした。
蒸し返すようですが、男はそう断りながら、こちらの方を見た。
「やっぱりあなた、飛び降りようとしていたんでしょう?」
「ち、違いますよ!」
慌てて男の言葉を否定する。
「さっきも言ったとおり、好奇心で覗き込んでみただけです」
私が語気荒く強調すると、男はハァと大きくため息をついた。
「残念です」
私が飛び降りないとなぜ男が残念がらなければいけないのか、わけがわからなかった。
そして男は真顔でこう言った。
「私、こう見えても幽霊なんです」
男はさらにわけのわからないことを言った。
つづく。
スカートのすそがばさばさと風に揺れる。
今さらながら私は自分が高所恐怖症であることを思い出した。足がすくんでしまうのが我ながら情けなかった。
ここに来るまで迷いなんて少しもなかったのに。
あと一歩。あと一歩でいい。ほんのあと一歩。
「飛び降りるつもりですか?」
男の声に私は本当に驚いた。
ついさっき辺りを見回したときは誰もいなかったのだ。
振り返ると男が一人立っていた。これといって特徴のない顔に人のよさげな笑みを浮かべていた。
「違いますよ、どれぐらいの高さがあるのかなぁと思って、覗き込んでいただけです」
ぎこちない笑みを返し、そう私は下手な言い訳をした。
私の答えになるほどと頷きながら、男は一歩私に近づいた。
「確かに人は高いところに登るとどうしても下を見たくなってしまうものですよね。足がすくむのはわかりきっていることなのに」
男は私の横に立つとそーっと首をめぐらして下を覗き込んだ、と思う間もなく、ヒョェ!と短く叫び声を上げて後ろに飛び退った。
「ダメです、絶対にダメ。実は自分は高所恐怖症なんです。いつかは克服できたら、と思ってはいるんですけど、でもダメです」
男は傍目から見て気の毒なほどぶるぶると震えながら、もう少し崖の淵から離れませんか、と私に提案した。
考えてみればおかしな話だった。男のことなどさっさと無視して飛び降りてしまえばよいのに、なぜか私は素直に男の提案に従った。
私たち二人は手近にあった二つの岩に向かい合うように腰を下ろした。
蒸し返すようですが、男はそう断りながら、こちらの方を見た。
「やっぱりあなた、飛び降りようとしていたんでしょう?」
「ち、違いますよ!」
慌てて男の言葉を否定する。
「さっきも言ったとおり、好奇心で覗き込んでみただけです」
私が語気荒く強調すると、男はハァと大きくため息をついた。
「残念です」
私が飛び降りないとなぜ男が残念がらなければいけないのか、わけがわからなかった。
そして男は真顔でこう言った。
「私、こう見えても幽霊なんです」
男はさらにわけのわからないことを言った。
つづく。
新しいカテゴリーを新設するのが面倒だったもので。(←ダメ人間の発言ですな。)
十名の方がコメントしてくれた時点で、次回分の執筆に取り掛かります。
コメントはとりあえず一週間受け付けています。
よろしくお願いします。
あんまり本を読まない私にそう言われてもうれしかないかな。あはは。
「読みやすい」の言い方を変えれば「素直に読めます」って感じかな。
続き楽しみにしてます
てか、これから続きを考えるんすか?(爆)
これもコメント数に入りますかね。(笑)
+1時間でした。すまぬ。
続き楽しみにしてるよ
7票目、続きたのんます
アレだったら名前だけ変えてまたナニしますんで・・・
(冗談です、そんなインチキしませんから)
てか、ネット共同購入なみに駆け込んでるお方がいるやん!せぷもなかなかよのぅ
んでこれも三題小噺?
前回のは自分の出したお題さえも忘れてフツーに読んでました はっはっは・・・
自分はボキャブラリーが豊富なわけでも、詩的な表現が出来るわけでもないので、せめて平易な文章を、と心掛けています。
「読みやすい」といってもらえるととても嬉しいです。
とらこさん、惜しい!!
三回連続でコメント一番乗りだったら、豪華景品がプレゼントされるのに!
んー、プレゼントは、、、(考え中)とらこさんが次に男に振られたら、一晩中愚痴に付き合うってのはどうでしょう?(シャレになってない?)
っていうか、とらこさんは常に振る方ですよね、失礼しました!笑。
える、清き一票、ありがとね。
でも現在当落線上だけど。笑。
cottontailさん、これからの展開は、くすっと笑えて、ぞぞっと背筋に寒気がして、ぽろりと泣けるよーなものになる予定です。(あくまで予定。笑。)
やまさん、インチキはいけないぞ、インチキは!
でも来週の火曜日になっても十名に満たなかったら匿名のカキコ、よろしく♪
にこ、これは全然三題小噺じゃないよ。
あの企画は別に終了したわけじゃないけど、見事に浸透しなかったので、実質終わりといってもいいかも?
自分が何かを企画して、上手く行った試しがないよ、とほほ。