この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

チャイルド44。

2008-11-09 22:52:29 | 読書
 トム・ロブ・スミス著、『チャイルド44』、読了。

 ネットでやたら評判だったので興味を惹かれ、読んでみることにしました。期待に違わず面白かったです。

 スターリン政権下のソビエト。そこでは国家への忠誠が何よりも重要視される。それは人命も例外ではない。
 44は一人の連続殺人鬼に奪われた子供の命の数。だが連続殺人という犯罪の存在を認めない国家により、殺人鬼は野放しになっていた。そのことに気づいた元国家保安省捜査官レオはすべてを賭して殺人鬼を追う・・・。

 ハードボイルド小説の主人公にはしばしば障害が付きまとうものです。例えば主人公が警官であれば上層部からの圧力だったり、女探偵であれば男性たちの偏見の目だったりするわけですが。
 本作の主人公レオのそれは並じゃありません。彼が所属する国家そのものが彼の前に立ちはだかる最大の障害なのですから。
 共産主義の元では誰もが理想的な暮らしを送れるはずである。ゆえに連続殺人といった凶悪な犯罪は起こるべくもない。犯罪の告発は国家への反逆に等しい。
 無茶苦茶な理屈なんですけどね。それが間違いだと指摘すること、いや、疑問を抱くことすらスターリン政権下のソビエトでは国家反逆罪だったのです。
 
 最初レオは国家に忠誠を誓う国家保安省のエリートとして登場します。彼は国の在り方に一切疑問を持ちません。ひたすら国家に尽くします。
 そんな彼が部下の陥穽にはまり、一つの選択を迫られます。最も身近にいる妻ライーサを反逆者として売り、自分と両親の安寧を得るか、もしくは妻の無実を主張し、上層部の不興を被るか・・・。彼は妻の無実を完全には信じられないまま、それを主張し、すべてを失うのです。

 本作を純粋にミステリとして読むとややご都合主義なところがあります。ご都合主義というか、強引なところ?連続殺人鬼の動機がね、ちょっと・・・。
 けれどエンターティメント小説としては超一級でまさに巻措く能わずの面白さです。
 また本作は一人の人間の、また一組の夫婦の、そして家族の再生の物語でもあります。レオとライーサが再びお互いをパートナーとして認め合い、やがて新たな家族を築こうとする姿には感動を覚えます。
 
 本当に本作は文句のつけようのない出来なのですが、一つだけ注文があるとすればナージャという少女の扱いでしょうか。彼女の扱いがぞんざいなような気がして、そこだけ不満を覚えました。それさえなければ本当に年間ベストワンだったんですけどね。
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10 コメント

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Unknown (麦風)
2008-11-10 08:09:38
「スターリンは馬鹿だ」と行った人が投獄された。
実は最高の国家機密だったから、というジョークがありますよね。
この物語は長そうですね。
覚えていて、うまく見つけたら、また挑戦してみよう。
忘れていて、うまく出会わなかったら、読めないかも。。。
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いい作品でした。 (B級読書家の幸太郎)
2008-11-10 10:45:16
私が特に好きなのが田舎の警察署の署長です。
いいコンビになりそうです。
もしかしたら続編があるのかもしれないですね。
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読むぞ (雫石鉄也)
2008-11-10 15:55:55
これは面白そうですね。ぜひ、読まねばなりません。
こんな面白い小説、どこでお知りになりました。私はうかつにも知りませんでした。
SFは判るのです、ミステリーは情報にうとくて・・。
海外のエンタティメント、ミステリー、ホラー、冒険小説の面白い新作の情報が手に入るサイトをご存知なら、ご教示願えないでしょうか。
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コメント、感謝です。 (せぷ)
2008-11-10 20:41:25
麦風さん、B級読書家の幸太郎さん、雫石鉄也さん、コメント、感謝です。

>麦風さん
確かに本書は内容的にも長さ的にも気軽に読める類いのものではないですね。

代わりに映画を一本紹介しましょう。
『善き人のためのソナタ』
http://www.amazon.co.jp/%E5%96%84%E3%81%8D%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF-%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E3%83%95%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF/dp/B000PWQS3G/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=dvd&qid=1226316178&sr=1-1(長いな・・・)
スターリン政権下のソビエトではなく、ベルリンの壁崩壊前の東ドイツが舞台ですが、『チャイルド44』と共通する部分も多いです。
未見でしたら是非是非ご覧下さい。

>B級読書家の幸太郎さん
いや、本書の続編が第一作に先駆けて映画化されてますよ。確かシュワルツネッガー主演で、タイトルは『レッド・ブル』だったと思います。笑。

>雫石鉄也さん
読むぞ、そういってもらえると紹介した甲斐があるというものです。

どこでこの作品を知ったのか、、、よく覚えてないのですが、トラックバック先のブログかどこかで絶賛されていたんだと思います。
最初はさほど気に留めてなかったのが、どのレビューでも絶賛されていて、それで自分も読まなければ!と思った次第です。

エンターテイメント小説の紹介サイト、というのは自分も実は知らないのです。最近は以前ほどは本を読まなくなってしまったもので・・・。
ただ、紹介サイトではありませんが、年末になると発売される『このミステリーがすごい!』(宝島社刊)は必ず購入するようにしています。
おそらく一位は本書だと思われます。笑。
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このミス (雫石鉄也)
2008-12-05 21:26:45
「このミス」2009年版を今日(12/5)買いました。
せぷさんのいうとおり、「チャイルド44」が1位になっていました。さすがですね。
ぜひ読みます。
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当たりました? (せぷ)
2008-12-05 22:25:55
『このミス』、まだ購入していないのですが、当たりました?
果たして『チャイルド44』が本年ナンバー1のミステリかどうか人によっては異論があるかもしれませんが、長年購入し続けていると何となく傾向みたいなものがわかるので、そうじゃないかと思ってました。
でも実際当たると単純に嬉しいなぁ。
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傑作でした・・・。 (にゃんまげ)
2009-02-02 12:51:27
正直言って、、、今まで読んだミステリーの中で、
最高傑作でした。
上下巻を三日で読破してしまうほど・・・。
間を空けて読んでしまうと、内容忘れちゃうので、、
面白くなくなっちゃいます・・・。
あとがきに、映画かされるって書いてありましたけど、めっちゃ楽しみですね!

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はじめまして。 (せぷ)
2009-02-02 20:22:47
はじめまして、にゃんまげさん。
今まで読んだミステリーの中で最高傑作だった、そういえる作品に出会えること自体素晴らしいことですよね。

自分のミステリーの最高傑作は何だろう、、、パッとは思い浮かばないんですが、スティーブン・ハンターの『極大射程』もかなり面白いですよ。
こちらもたった一人で国家を敵に回した男のお話です。

映画化、、、正直、原作に思い入れがあると裏切られることが多いのですが、リドリー・スコットであれば期待できますよね!!
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Unknown (つけめんデリック)
2009-07-18 03:04:07
列車に乗ってからは怒濤のおもしろさです。
そこまでの舞台設定がややたるい。
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緩急。 (せぷ)
2009-07-19 21:27:15
つけめんデリックさん、コメント、ありがとうございます。

自分は列車に乗り込むまでの展開は、ジェットコースターで言えば、最頂点に達するまでの上り坂みたいなものだと思いました。
あれがあるからこそ後半の怒涛の展開に繋がるのではないでしょうか。
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