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半世紀前の受験生の読後感想文

2016年12月29日 | 数学

書名  「大学への数学」に挑戦
著者  山下光雄
発行者 講談社(ブルーバックス)

半世紀以上昔にさかのぼる。田舎の高校で受験勉強をしていたとき、周りの「主要国立一期校受験生」に教えられて毎月購入した雑誌が「大学への数学」だった。当時理系文系を問わず、数Ⅰ・数Ⅱは必須、一部大学は文系学部ですら数Ⅲ(微積分順列組合せ)も受験科目にあった。当時この雑誌は購読していること自体が「志望校ステイタス」を示すほどの難しさだった。一般的な数学の記事や問題解説のほかに毎号かなり難しい問題が読者に対し出題され、その解答を郵便で編集部に送る。少なくとも1問に半日以上かけないと解けない問題だった。解答の手掛かりはあるがなかなか進まない、意地になって何日も頑張った記憶がある。採点結果の優秀者は高校名と名前(自分がつけた「投稿ネーム」)が雑誌に掲載される。「投稿ネーム」は自分が勝手につけているので、優秀と評価されても自分にしかわからない。自分の投稿ネームを誌上で見つけた時の嬉しさは格別で未だに覚えている。

というわけでまずはこの本の表題に懐かしさをおぼえて手に取った。雑誌「大学への数学」の連載記事をまとめたということを知り好奇心がつのり購入し読み始めた。月刊誌の連載記事を本にしているため、あるテーマを中心に据えてまとめた系統的な書物にはなっていないのはやむを得ない。やはりこの点はちょっと物足りない。例えてみれば、ハードカバーの長編ミステリーと短編小説集の文庫本の違いのようなもの。何とか「シリーズ物の短編集」にしようとしてはいるが、どうしてもあれがありこれもあるという本になっている。その点はこの本の基本的な性格だからそのつもりで読むべきなのだろう。

ただ、高校数学の知識を前提にしているとあるが、高校数学の「すべての知識」を身につけているものは少数である。やはり高校数学でもわかりにくい部分はもう少し丁寧な説明があってしかるべきだ。私自身概ね高校数学は理解しているが、例えば、行列の固有値がらみの事項は忘れていた。そのため、ほかの本でもう一度固有方程式などをざっと復習しなければついていけない部分があった。ちょっとした一言説明があればよいのに、と感じた。

とはいえ、こうした「注文」は私自身の知識の偏重によるものだから、ある意味では文句を言う方が悪い。そこを斟酌すれば、なかなか面白い本になっているのは事実。教科書的な論理の積み重ねに疲れた時、分かりにくくなったら飛ばして次の章から読み始めるという読み方ができるというのは、数学の本としては魅力的である。自分が興味をおぼえる分野を中心に読み、興味を感じない章はざっと飛ばし読みをするのがこの本の読み方として適切だ、というのが数学趣味の社会人読者の一人としての感想である。ただし、行列に関することを読み飛ばすと半分以上のページが手つかずになるので、線形代数が嫌いな人はコストパフォーマンスが悪くなるのは避けられない。