旋律はいつもドリン系

高校時代のマンドリンクラブの話です。
若干、ほんとのことをベースのフィクションです。

(09)福田先輩は上機嫌?なのじゃ。

2008年09月26日 22時50分41秒 | 3章-ワシと江本の八福(ハチフク)代理戦争
目次
〈1章-はじまりは、こんなもん〉の最初から
〈2章-D線の切れる音〉の最初から
〈3 章-ワシと江本の八福(ハチフク)代理戦争〉の最初から
〈4章-スターウォーズと夏の日の恋〉の最初から

『福田って、ちょっと低めにチューニングする癖があるんだよね。』

どういう意味?八守先輩が呟いた一言が気になった。
ワシはいつも単刀直入じゃ。

「八守先輩。低めにチューニングってどういう意味なんですか?」

自分のギターをチューニングしながら、それでも先輩は答えてくれた。

「確かにあいつは、人の何倍も練習して上手くなった。
だけど、ギターどころか音楽を始めて、まだ1年ちょっとなんだ」

そう言えば福田先輩も、そんな事を言ってたな。
本気で練習を始めたのは、1年の定期演奏会が終わった後からだって。

「いつもなら気にしないけど、今日は腹が立ったから言っちゃった。
まあ、いずれ教えてやるつもりだったけどね。」

八守先輩は、ワシに言い訳するように話している。
ワシに弁解しても、しょうがないと思うのじゃが、
自分でも、さっきのはやり過ぎたと感じているみたいだ。

「チハルには、まだ微妙な音の違いは分からないと思うけどね」
そう言うと、さっさとチューニングを済ませて合奏場に行ってしまった。

ワシに分からないのは『微妙な音』どころではないのじゃ。

要するに八守先輩は、福田先輩の経験が足りないって云ってるのか?
意地悪だけで言ったのではなく、本当にチューニングが少し狂っていたらしい。
どうもワシにとって、次元の違う話のようじゃ。

合奏が始まった。

福田先輩は前から3列目の客席側。
ワシの座っている最後列からは、よく見えた。
ミスタッチが多いのか、しきりに首を捻っている。
あきらかに、さっきのことが影響している。調子が悪そうだ。

最後列から最前列の八守先輩の表情は見えないが、
隣の席の棗田先輩の椅子が、いつもより離れている気がした。

合奏練習が終わると、顧問の古森先生が鞄から楽譜の束を取り出した。

「定期演奏会の曲がひとつ決まりました。
大会の曲の練習もありますが、定期演奏会の曲もこれから増えるから、
時々は目を通しておくように」そう、言いながら楽譜を配る。

配られた楽譜は『エーゲ海の真珠』スペインのアウグスト・アルゲロ作曲。
ポール・モーリア・グランド・オーケストラで、一躍有名になった名曲だ。
イージーリスニングで有名なポール・モーリアは、1968年に『恋はみずいろ』を世界的にヒット(約500万枚)させ、これでグラミー賞を受賞し、一躍名を馳せた。(Wikipedia参照)

ワシは楽譜を見て、すぐブルーになってしまった。
おたまじゃくしで、真っ黒。重音のオンパレードじゃった。
ギターの上級生から『音を取るのが大変だ』『難しい』という声が聞こえる。

ドリン系はそれほど難しくないのか、
早速、初見(初めて見た楽譜を弾く事)で弾く者もいた。

合奏曲ではよくある事だ。パートによって、難易度が違う。

ドリン系から聞こえるメロディーで『ああ、この曲か』とほとんども者が思った。
それほど、この曲は有名だ。しかし、いい曲と弾きたい曲は違う。
ギターからは、この曲を選んだ先生に対して怨嗟の声が聞こえる。

ただ一人、福田先輩を除いて。

福田先輩は、いかにも難しそうな楽譜が大好きだ。
難しければ難しいほど、やる気が出てきて、目がキラキラする。

よかった、よかった。この楽譜で機嫌が直ったみたいじゃ。
ワシはこの後の居残り練習で、
八つ当たりされはしないかと心配だったのだ。

しかし、福田先輩の上機嫌の本当の意味に気付くのは、もう少し後になる。

いつもお越しくださる、訪問者の方々。更新が遅れて申し訳ありません。9月20、21日と所属するクラブの合宿に行ってました。でも、遅れた理由はそれではありません。筆が滑ったというか、キーが滑ったというか。自分で当初、予定していた話からだんだん逸れて行ってます。この先どうなる!?頑張れワシ。
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