目次 〈1章-はじまりは、こんなもん〉の最初から
〈2章-D線の切れる音〉の最初から
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藤本はやっと自分が経験者であることを告げられて顔が上気している。
鼻の穴も上向き、開き気味だ。
棗田先輩はちょっと、考えている。
ワシときたら、すっかり凹んでしまった。
別にやりたくて始めたギターではなかったが、
一緒にはじめたと思っていた仲間がいきなりはるか先にいると思うと、
急にやる気がなくなってしまった。
(ベースの方がよかったかな。)
何の根拠のないのだが、勉強やこういう音楽などは、
絶対、自分の方が藤本より上手いと勝手に思い込んでしまっていた。
イメージとしては、上達したワシが藤本に
「ここは、こうやって弾くんだよマ-くん」などと上手に教えてやって、
その際に藤本のプライドをなるべく傷つけないように気をつけなければ。
などと心配していたのだ。
「そうか、藤本くんはフォークギターやってるんだ」
棗田先輩にそう言われて、藤本、鼻の穴マックス。鼻息アップ。
「はい。簡単なコードだったら、だいたい押さえられます。」
また、コードだ。コードっていったい何?
「わかったわ。でもコードはとうぶん使わないから、今は忘れていて。」
「えっ……。」藤本、絶句。鼻の穴が静かに閉じられていく。
不満そうな顔をしているが、恋する棗田先輩には文句も言えない。
また、ワシ達はトンテン、トンテンと右手の練習を始めた。
1弦から2弦、3弦、4弦、5弦、6弦まで。非常に地味だ。そして疲れる。
しばらくすると、休憩をとってくれた。
3年生も自分の練習がある。ワシらの休憩中に練習をするのだ。
だから、休憩時間が長い。
しばらく休憩すると先輩が来る前に自分で練習を始めるのだが。
「マーくん。コードってなんじゃ?」
よくぞ、聞いてくれた。という顔をして、
もぞもぞとEm(イーマイナー)を押さえてボローン。
もぞもぞとAm(エーマイナー)を押さえてボローン。
「これが、コードじゃ。」
これがコードじゃ。と言われても、当時のワシは音楽の素養がまったく、
なかったのでEmとAmの差などわかるはずもなかった。
「それが、なんなんじゃ?」
「わからんかのー!」と言って、またコードを、もぞもぞボローン。
もぞもぞボローン。もぞもぞボローン。
「ふ、ふ、ふ、ふ~ん。ふ、ふ、ふ、ふ~ん。」と、
また例によって鼻歌をやりだした。
「おっ。マーくん、それ聞いた事ある。えーと、なんだっけ?」
「無縁坂じゃ。」
そうじゃ。そうじゃ『さだまさし』じゃ。と言うと、藤本はむきになって。
「違う。グレープじゃ。」と訂正する。
この当時、グレープは解散して『さだまさし』はソロとして活動を始めていたのだが、
ワシにはどうでもいいことなので、「ふ~ん。」としか言いようがなかった。
それよりも。
(さだまさしは、あんたのキャラに合わんのじゃなかろうか?)と思っていた。
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〈2章-D線の切れる音〉の最初から
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藤本はやっと自分が経験者であることを告げられて顔が上気している。
鼻の穴も上向き、開き気味だ。
棗田先輩はちょっと、考えている。
ワシときたら、すっかり凹んでしまった。
別にやりたくて始めたギターではなかったが、
一緒にはじめたと思っていた仲間がいきなりはるか先にいると思うと、
急にやる気がなくなってしまった。
(ベースの方がよかったかな。)
何の根拠のないのだが、勉強やこういう音楽などは、
絶対、自分の方が藤本より上手いと勝手に思い込んでしまっていた。
イメージとしては、上達したワシが藤本に
「ここは、こうやって弾くんだよマ-くん」などと上手に教えてやって、
その際に藤本のプライドをなるべく傷つけないように気をつけなければ。
などと心配していたのだ。
「そうか、藤本くんはフォークギターやってるんだ」
棗田先輩にそう言われて、藤本、鼻の穴マックス。鼻息アップ。
「はい。簡単なコードだったら、だいたい押さえられます。」
また、コードだ。コードっていったい何?
「わかったわ。でもコードはとうぶん使わないから、今は忘れていて。」
「えっ……。」藤本、絶句。鼻の穴が静かに閉じられていく。
不満そうな顔をしているが、恋する棗田先輩には文句も言えない。
また、ワシ達はトンテン、トンテンと右手の練習を始めた。
1弦から2弦、3弦、4弦、5弦、6弦まで。非常に地味だ。そして疲れる。
しばらくすると、休憩をとってくれた。
3年生も自分の練習がある。ワシらの休憩中に練習をするのだ。
だから、休憩時間が長い。
しばらく休憩すると先輩が来る前に自分で練習を始めるのだが。
「マーくん。コードってなんじゃ?」
よくぞ、聞いてくれた。という顔をして、
もぞもぞとEm(イーマイナー)を押さえてボローン。
もぞもぞとAm(エーマイナー)を押さえてボローン。
「これが、コードじゃ。」
これがコードじゃ。と言われても、当時のワシは音楽の素養がまったく、
なかったのでEmとAmの差などわかるはずもなかった。
「それが、なんなんじゃ?」
「わからんかのー!」と言って、またコードを、もぞもぞボローン。
もぞもぞボローン。もぞもぞボローン。
「ふ、ふ、ふ、ふ~ん。ふ、ふ、ふ、ふ~ん。」と、
また例によって鼻歌をやりだした。
「おっ。マーくん、それ聞いた事ある。えーと、なんだっけ?」
「無縁坂じゃ。」
そうじゃ。そうじゃ『さだまさし』じゃ。と言うと、藤本はむきになって。
「違う。グレープじゃ。」と訂正する。
この当時、グレープは解散して『さだまさし』はソロとして活動を始めていたのだが、
ワシにはどうでもいいことなので、「ふ~ん。」としか言いようがなかった。
それよりも。
(さだまさしは、あんたのキャラに合わんのじゃなかろうか?)と思っていた。
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