ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 鶴間和幸著 「人間・始皇帝」 岩波新書(2015年9月)

2016年10月31日 | 書評
中国最初の皇帝による中華帝国の統一事業と挫折 第6回

3) 秦帝国の成立ー中華の夢 (その2)

戦国時代を戦い抜いて、秦帝国を作った時点で、始皇帝は東の海に出て国内の敵を失いました。統一後平和の6年が過ぎ、今度は南北に敵を掲げたのです。第4回の巡行で昔の燕に入り渤海湾に達した時、始皇帝は秦帝国から中華帝国へと第2段階の夢を見ようとしました。新たな対外戦争を推進したのは丞相の李斯である。彼は法制で天下を統一すると、空間的な大帝国のシステムを作ろうとしたのである。北方には戎夷・戎狄と総称される民族に犬戎、山戎などがいた。春秋戦国時代には犬戎は周に侵入し幽王を殺し、山戎は斉と戦った。戎狄は周の?王を追い払い洛邑に侵入した。秦の穆公は西戎八国を服従させ西戎の覇者になった。北の遊牧民族は総称して胡と呼ばれ、林胡、東胡、匈奴などがいた。中華の風俗は冠帯であったが、服は戦国時代からズボンスタイルの胡服の習俗が紛れ込んでいた。始皇帝時代の匈奴の指導者は頭曼単于であった。秦は戦国六国が無くなった時点から蛮夷の力を意識した。秦は北が匈奴、西は月氏と接していた。始皇32(前215)年第4回目の巡行では始皇帝は初めて北辺を回り、この時燕人盧生が「録図書」を奏上し、「秦を滅ぼすは胡なり」といって、始皇帝に胡をはっきり意識させた。始皇帝はすぐに30万人の兵を将軍蒙恬に与えて匈奴を攻撃させ河南の地を奪った。河南とは黄河に囲まれた草原地帯でそこにオルドスのモンゴル人がいたのであった。戦国時代、北辺を匈奴と接する秦・趙・燕の三国は胡の南下を恐れて長城を築いた。始皇帝は始皇34(前213)年、臨とうから遼東までの長城を築いた。こうして河水の土地は秦のものになった。秦の万里の長城が遊牧民の匈奴の南下を食い止める効果は大きく、長城は東の海にぶつかった。始皇35(前212)年、始皇帝は都咸陽の雲陽から約700Km、旧長城を越えて内モンゴルの九原郡包頭まで「直道」という軍事高速道路を将軍蒙恬に命じて建設した。万里の長城と直道は始皇帝にとって中華帝国の夢を実現する一大土木事業となった。都咸陽から放射線状に「馳道」という国有道路が東方に伸びた。内地となった長城は廃棄され、新たに北の直道と南の運河によって帝国支配のネットワークが完成した。秦帝国の統一時には、北は黄河流域が秦と匈奴の境界とすると、南方では江水(長江)が境界で、それより南は越人の世界であった。始皇帝はこれまで4回の巡行でも長江を越えたことはなかった。この地ははるか昔の堯舜の時代には、雲夢沢(洞庭湖)や九疑山(広東省)には事蹟が祀られている。始皇32(前214)年秦は陸梁の地を奪い、南海(東シナ海)に向かった。匈奴作戦には30万人の兵を、対百越戦争には50万人の兵を差し向けるという、二面同時戦争という無謀な戦争になったのである。対百越戦争は国家間戦争というよりも、ゴールドダッシュのような新たな物資とフロンティアを求めた開拓移住事業と言える。古代日本の屯田兵制度に似た半農軍人の植民開拓事業であった。桂林・象・南海の三郡が設置された。始皇帝の時代に物資と兵士を輸送するため、嶺南に至る運河建設を行い、34Kmの霊渠が築かれた。長江中流の南郡が南方支配の根拠地になり、そこから南下すれば南シナ海の番禺の港(今の広州)に出ることができる。秦はここに造船工場を作ったとされ、ドッグが発掘されている。南越植民事業の中心は趙侘であったが、その人物が秦滅亡後に南越国を建国した。始皇帝の時代、孔子を継承した孟子(前372-289年)の儒家の間には、二面同時戦争に反対論が出た。荀子(前289-235)の弟子の韓非や李斯は法家として始皇帝を支えた。始皇34(前213)年始皇帝は大臣博士たちに議論をさせた。丞相李斯は「古をもって今を非る」として儒家を非難し、「焚書令」を出した。始皇帝は李斯らの法治主義の他に道徳である礼治主義を取った。国家は法により治め、家の秩序は礼によって治めることを政治の基本とした。「焚書令」とは秦の歴史書を除き史官にある文書をすべて焼却するというものである。さらに博士らの官が所有する文書は別として、民間に所蔵される詩・百家の書は焼却するというものであった。「古をもって今を非る」者は処刑するというものである。つまり戦争反対論の抹殺を図った。始皇帝は李斯の焚書令を承認した。なお「焚書坑儒」という言葉は儒教を国家の学問とした後漢の時代に出た言葉である。

(つづく)
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