ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 伊東光晴著 「ガルブレイス―アメリカ資本主義との格闘」 (岩波新書2016年3月)

2017年06月02日 | 書評
戦後経済成長期のアメリカ産業国家時代の「経済学の巨人」ガリブレイスの評伝 第6回

第2部  ガルブレイスの経済学
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2) 「ゆたかな社会」1958年ー現代資本主義論の提起 (その1)

 ガリブレイスは国の経済を二つに分ける。大規模の資本を持つ高度に組織された数百の法人企業が存在し、一方には何万という小規模な伝統的個人事業が存在する世界である。この二つの部門は行動原理が全く異なっており、努力それ自体の刺激要因、経済組織のすべての面で異なっている。この「ゆたかな社会」とは社会の窓のような象徴的な特徴を表現しようとするものである。1950年代は世界経済の中心はヨーロッパからアメリカに移り、アメリカは戦後の繁栄の中にあった。1950年の個人消費は1960年に70%も拡大する右上りの成長期であった。1960年代を「黄金の60年代」とすれば、50年代はその助走期にあたりガリブレイスは「ゆたかな社会」と呼んだ。大衆消費時代に入り、これまで手にしたことがなかった物、車、家電製品、食品などが生活にあふれだした。だがガリブレイスは豊かな生活を享受していると思っている大衆や中産階級の人々の貧困を発見する。1956年英国のJ・ストレイチは「現代の資本主義」を書き、アメリカのガリブレイスは1958年に「ゆたかな社会」を書いて、過去の経済学者の通念を検討し、現代の諸相を分析した。ストレイチはガリブレイスの「アメリカの資本主義」を引用して、寡占巨大企業を運営しているのは、昔の小規模資本家ではなく経営者であり、市場は規模の経済性から変質していることを明らかにした。ストレイチの視点は経済は悪を生み、政治がそれを正すという考えをとる。自由放任の市場経済は不平等を生み、貧困が生まれかねない。だからケインズ的政策に期待する。それはガリブレイスも同じ視点である。労働党による社会福祉政策が厚く行われている英国に対して、アメリカには福祉政策は敵という通念が支配している。それにはイギリスで生まれた「社会ダーウィニズム」のスペンサーの適者生存説がアメリカに大きな影響を与えたためである。19世紀のトラスト運動による巨大企業の成立時期に当たり、彼らの行動を正当化するものになった。ガリブレイスは「大企業の発展は適者生存に他ならない。しかし数えきれない人々の犠牲の上に成り立っている」といった。この適者生存、社会的ダーウィニズムの考えが、アメリカでは経済学の理論の中に入り込んでいる。市場原理主義者と結びついた需要・供給、価格決定理論は、こうして社会ダーウィニズムの支持理論となり、市場競争で敗れた者や貧困者の自己責任論が横行した。アメリカには欧州のような共同体という封建制度の時代はなく、アメリカ大陸に投げ込まれた人々は一足飛びにアトム化された個人となった。自立の思想が深く根ざしてスペンサーの思想を受け入れたのであろう。ガリブレイスはその生い立ちから大型家族農業的な生活スタイルに強く規定され、むしろヨーロッパ的な共同体的思想を重んじたため、市場経済一元論や社会ダーウィニズムに対して批判的な論説を展開した。市場原理主義や適者生存説を乗り越え、アメリカ人の所得水準を大きく引き上げ。現に「ゆたかな社会」を創り上げた現実の力を、ガリブレイスは技術の進歩による大規模生産性の向上にあると考えた。それは「乗用車を作る労働者が自動車を買えないのはおかしい。自動車の値段を下げると同時に労働者の賃金を引き上げる」というフォードの経営理念である。フォードはステイクホルダー型の経営者でもあった。貧しき時代の経済の通念である生産性の向上(生産優先)志向はスミスからマルクスまで共通した経済観であった。経済学は限界効用は逓減するという。所得が増大するにつれ、日知日とは必需度の高いものから、次第に必需度の低いものへ消費傾向が移行する。つまり欲望を刺激しながら市場を拡大してゆくのである。大量生産は、自動車、家庭電気製品を供給し、テレビ時代を作った。メディアを使って広告競争を経営の武器とする小売業が栄え、マスプロ、マスコミ、マスセールスの時代である。消費需要に広告の果たす役割が大きくなり、あたかも消費需要は、財の供給者の働きかけによって動いている。マスセールはマスコミと車の両輪の関係にある。貧しい時代なら人々は自らの必要に応じて消費生活を営む。したがって知性と理性を持ち行動する市民社会の中の個人という経済学上の消費者とは、貧しい時代を背景とした理念である。だが現実は市民社会ではなく大衆社会となっていた。マスコミによって動かされ、生活様式が画一化されると、人々は私的世界に埋没し社会性は薄れ、社会の全体の動きに流される。大衆社会は、マスコミによって動かされる画一的消費生活が作られるように、政治もマスコミが作る世論が社会を動かすのである。生産あるいは供給サイドの武器である広告宣伝によって消費者の欲望水準が変わることをガリブレイスは「依存効果」と呼んだ。消費が生産に、需要が供給に依存するという逆転現象となる。

(つづく)
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