ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 吉田千亜著 「ルポ 母子避難ー消されゆく原発事故被害者」 (岩波新書2016年2月)

2017年05月20日 | 書評
子供を守るため自主避難した原発事故被害者への、住宅供給政策と生活支援策の切り捨て 第6回

2) 避難生活と崩れゆく家族

 前章に引き続き、いわき市から埼玉の雇用者促進住宅に避難してきた母と子の避難生活をルポしている。団地住まいも初めての経験であった母子避難家庭のお話である。母子家庭は弱い存在であるので、母子家庭であることが分かるとそれだけで危険だし、肩身の狭い思いで、人目を避けた生活が始まった。娘には唯一体操教室に通わせたことが世間とまじわるばであったという。古い雇用者促進住宅は狭く、機器も古くて不便なことが多い。そこに住んでいる人々にも不満があったとしてもよそに移るわけにもゆかなかった。災害救助法に基づいて供給される借り上げ住宅は、一度転居すると「避難の終了」と見なされ、それ以降には家賃が発生する。借り上げ住宅はプレハブのように建築型仮説住宅だけでなく、全国の公営住宅や民間賃貸住宅も「みなし仮説住宅」として無償供給される。一度住んだ借り上げ住宅は条件を満たさないと住み替えは認められない。じっくり周囲の状況や住宅空間と設備を検討する余裕もなく、選択肢も少ない中で借り上げ住宅に入った。自主避難者は避難にかかる費用はj子負担した。無償の借り上げ住宅の供給があったから避難を継続できた。福島県んp「自主的避難等対象区域」に指定された地域には定額の賠償が2012年に2度あったが、避難費用を賄える額ではなかった。隣人とのトラブルなどで住み替えを要求すると、「避難先の自治体の判断」とか「住民票のある自治体の判断」の間に問題は宙ぶらりんとなる。平等を理由にして我慢すべきだという論理が見え隠れする。「避難指示がない避難は自主的なもので、自己責任である」という論理にすり替えられ世間の空気が多くの避難者を苦しめる問題の根幹にあった。母子避難者の子育ては困難を極める。夫の協力が順調に行かないと、妻への負担が大きくなり妻の精神的肉体的疲労度が増すだけでなく子供の体調もおかしくなる。避難をきっかけにはじまった別居生活は夫婦の間に隙間風が吹き、意志の疎通もままならぬことになり離婚になるケースもある。すると母親の生活が崩れ始め、鬱からアルコール依存症になり、母親の体調に異変が起き何もできないという状態になる人もいる。最悪のばあい「自殺したい」と口走るようになったら要注意である。離婚した母子家庭の最大の問題は貧困であり、生活保護を受けるケースもある。これで借り上げ住宅が無くなり家賃が発生すると、一家心中になってしまう。次の問題は残された夫である。母子避難をさせた夫は、一人被災地に残り生活している。そして避難することはなかったのだと思うようになると、母子避難に対して「わがままだ」というような否定的な気持ちを持つようになる。特の夫側の両親の不満は大きいようだ。そして夫の様子もおかしくなるようだ。第一に別居生活の問題は「夫の浮気」である。それは妻を苦しめ生活が投げやりになり、行き着く先は「離婚」である。

(つづく)


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