ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 田中浩著 「ホッブス」 (岩波新書 2016年2月)

2017年05月13日 | 書評
民主主義的近代国家論の基礎となったホッブスの政治理論 第11回

4) 近代政治思想史上のホッブスの意義 (その1)

 17世紀イギリスの二つの市民革命は、その後の近代全体に関わる政治・経済・思想の民主主義モデルを形成した。(日本では一度も民主革命を経験していない) ホッブスはピューリタン革命(1640-60年)から名誉革命(1688年)に至る時代の息吹をいっぱいに吸った思想家であった。ホッブスの思想がその後のヨーロッパに与えた影響を検証しよう。まずホッブスと同時代の思想家について見てゆく。17世紀には3人の偉大な政治思想家、ハリトン、ハリントン、ロックがいた。クロムウエル時代にオックスフォード大学総長であったハリトン(1600-81年 )は、「モナーキー論」を著して「制限・混合王政論」を「議会主権論」という近代的政治論に組み替え、ホッブスとロックの橋渡した政治思想家である。ハリトンは不安定な「制限・混合王政論」を克服するため、国の主権を「国王・上院・下院」の3身分からなる議会にあるとした。この「議会主権主義」はロックに引き継がれ、今日の「議会制民主主義論」へと発展した。ハリントン(1611-77年)は名門貴族の出で、「クロムウエルの独裁」に反対し「オシアナ」を著して、「くじ引き」と「交代制」を柱にする政治制度と二院制の代表制を提案した。これは政治制度論によって権力を抑制する考えである。ハリントンはホッブスの政治論を高く評価したが、ホッブスには権力を抑制する制度論がないという。ロック(1632-1704年)はホッブス、ハリトン、ハリントンの政治論を巧みに接合して、私的所有権を自然法によって正当化し、所有権を守るために「社会契約」を結び政府を作るという、近代政治・経済思想モデルを打ち建てた。ロックの政治理論は、ジョンロック著 「統治二論」岩波文庫において、「私は政治権力とは固有権の調整と維持のために、死刑を含むあらゆる刑罰を伴う法を作る権利であり、またその法を執行し外国の侵略から政治的共同体を防衛するために共同体の力を行使する権利であって、しかも公共善のためだけにそれを行う権利であると考える」 という定義で始まる。ホッブスの政治思想はイギリスではロックによって受け継がれたが、欧州大陸ではドイツの政治思想家ぷーへんドルフ(1632-94年)が普及させた。プーヘンドルフはホッブスの社会契約を採用し、近代国家論を展開した。そこにロックと同じように「所有権の安全」を入れ、当時の領邦国家であるドイツの特殊事情によって2段階契約論に変えている。ドイツにはまだ市民階級不在であったためである。オランダのスピノザ(1632-77年)はホッブスの思想を後のルソーに受け渡したという点で注目すべき思想家である。国家と宗教との分離、生命の保全のための社会契約論はホッブスから受け継いだ。共和国オランダの政治風土から、最高権力者の権力をチェックする必要を考えていた点がホッブスとは違う点である。大陸フランスでは、ルソー(1712-78年)の「社会契約論」がフランス革命の導火線となった。18世紀中頃イギリスでは産業革命によって資本主義が発展し、フランスでは資本主義が創成期にあった。そこでは富の不平等という矛盾が顕在化し、自由と平等が同時に問題となっていた。自然法思想家たちの中で、不平等問題を世界で最初に取り上げた人がルソーであった。民主主義がまだ進んでいなかったフランスでは封建的絶対君主制と資本主義の矛盾という二重苦にあえいでいた。1755年に「人間不平等論」を書いたが、マルクスのような分析ができなかった。「社会契約論」では「人民主権論」を提起し、人民の意志と力を「一般意思」と呼び、この一般意思がすべての権力より優先するとした。ホッブスの「主権論」を「一般意思」に置き換えてすっきりさせ、主権者と契約者の利害の乖離という誤解を解いた。次にロック以降のイギリスの「社会契約論」を発展させた政治思想家として、「コモン・センス」を書いたペイン(1737-1809年)はアメリカ独立運動を支援した。イギリスの民主主義は実質的に不十分である(下院の選挙権は成人男子の1/7以下)として選挙権の拡大や経済的平等を訴えた。ベンサム(1748-1832年)は市民社会にふさわしい新しい政治思想を意識して、「最大多数の最大幸福原理」という「数の原理」を導入し普通選挙法を提案した。ベンサムの政治思想は19世紀半ば以降、労働者の要求を考慮した福祉国家への道(J・Sミル)へと発展し、植民地政策・帝国主義批判や社会民主主義の提案(E・Hカー、ラスキ〉へと進んでいった。

(つづく)
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