ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 本間 龍著 「原発プロパガンダ」 〈岩波新書2016年4月)

2017年07月15日 | 書評
電力会社と政府による原発推進宣伝の国民洗脳テクニックの数々 第1回

序(その1)

 2011年3月11日の東電・福島第1原発事故以前、国内のほとんどのメディアは、政府及び原子力ムラによる原発礼賛の広告、または翼賛記事を大量に掲載、放映していた。それらはいずれも「原発は絶対に事故をおこさない」、または「万が一事故が起きても放射線漏れは絶対ない」といった明らかに事実に反する虚偽の主張に基づく「安全神話」で彩られていた。このほかのキャッチフレーズには「原発はクリーンエネルギー」、「原発はリサイクルエネルギー」というフレーズを流していた。これら「安全神話」の流布を、国民を原発推進に駆り立てるための「原発プロパガンダ」と呼ぶ。本書は、約40年にわたり(1970-2010年)、原子力ムラと政府が使った国民を欺くテクニックと、その実行主体と協力者、そして事例を明らかにする。1950年代から国策として国が主導し、政官学と電力業界を中心とする経済界が展開した原発推進PR活動、その期間・巨額の予算からして、世界でも類がないほどの国民煽動プロパガンダであった。政府・推進側の権力が原発推進のために効果的に行う啓蒙宣伝活動は、戦後社会に浸透した消費市場になくてはならない「広告」という手法であった。最も効果的な展開計画を?つあんし実行したのが、電通をはじめとする大手広告代理店であった。原発は豊かな社会を作り。個人を幸せにするものだという幻想に満ちた広告が繰り返し、専門家や文化人、タレントを使って展開された。見る人、聴く人は何回も繰り返されるにつれて、それが本当のように受け取るようになる。これはナチスの宣伝省の戦略であった。その広告のために電力会社9社は約40年間に使った普及開発関係費(広告費)は実に2兆4000億円に上った。これはトヨタやソニーのようなグローバル企業の宣伝費を上回る。原発プロパガンダを実施したのは電力会社だけでなく、その業界団体である「電気事業連合会(電事連)」が全国宣伝を代行した。さらの経産省資源エネルギ―庁・環境省・文部省・NUMO(原子力発電環境整備機構)などの政府広報予算に投下された税金は、電力業界が使った宣伝費匹敵する。この広告は表向きは国民への原発次号の宣伝という目的の他に、メディアへの巨額な仕事を提供し、一度広告費を受け取ると経営計画に組み込まれ、なくてはならない収入源となってしまい、広告を引き上げるという殺し文句でメディアを支配し、メディアを原発推進派の宣伝部隊に化すことができる。原子力ムラの代理人としてメディア各社(新聞・テレビなど)との交渉窓口になるのが、電通と博報堂に代表される大手広告代理店である。日本で大手広告代理店2社が独占体制ととれるのは、欧米にある「1業推1社制」(同じ業種には1社の広告代理店しか入れない)がないため、1社の広告代理店が例えば自動車会社数社と契約できる(水平独占)。また欧米では広告制作部門とメディア購入部門の分離が大原則であるのに対して、日本では広告制作からメディア購入まで一貫体制(垂直独占)が敷ける。この垂直独占禁止制はいま電力の自由化で採られようとしているが、電力製造と電力流通の分離別会社がどこまで実効性があるのか疑問である。さらの日本だけで特殊な営業スタンスが、「メディアの枠をスポンサーに売る」という体質である。欧米では「スポンサーのためにメデァの枠を買う」となっている。つまりメデァは大手広告代理店に「広告を買ってもらう」という弱い立場にある。同じような構造は大手旅行代理店とホテル・交通媒体(航空機・JR)の関係でもいえる。スポンサーを顧客個人、メディアをホテル・交通媒体と読み替えれば、大手旅行代理店の優位性が際立つことが分かる。反原発報道を好まない電力会社の意向が大手広告代理店によってメディ各社に伝えられ、隠然たる威力を発揮する。だからメディア(新聞・テレビなど)は反原発報道をしてパトロンのご機嫌を損なうと、広告費を一方的に引き上げられ経営的にピンチとなる。広告費を形にした恫喝・メディア支配を行うのが、広告代理店の仕事である。メディアは批判的報道を控えるという自粛策をとる。メディアの報道内容については電事通が日常的に監視しており、反原発報道が出ると電事通は専門家を使って執拗な記事の訂正・修正を求めるのである。こうして3.11までは、巨大な広告費による呪縛と原子力ムラによる監視と攻撃によって、原発推進勢力は完全にメディアを制圧してきた。つまり日本の広告業界の特殊性が、原発プロパガンダの成功の大きな要因であった。本書の主な目的は、原発の安全性に関する科学的・技術的問題を追うのではなく、原発推進側の宣伝プロパガンダの歴史を検証し、そして日本の戦後広告史の暗黒面を検証することである。

(つづく)
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