ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 本間 龍著 「原発プロパガンダ」 〈岩波新書2016年4月)

2017年07月22日 | 書評
電力会社と政府による原発推進宣伝の国民洗脳テクニックの数々  第8回

5) 2013年以降の原発プロパガンダ(その1)

 2011年3.11の事故当時、事故の全容が判明せず、それまで原子力ムラの呪縛下にあったテレビメディアは、なかなか東電批判には踏み切れなかった。事故当日の夜には原子炉内で燃料棒のメルトダウン、原子炉壁のメルトスルーはおきていたが。政府保安院と東電は5月末まで、メルトダウンを認めなかったが、広告費の呪縛が解けた多くのメディアは、東電福島第1原発で起きている現況について一斉に報道を始めた。3月19日から6月25にTまでの雑誌の取り扱い頁数は「週刊現代」が614頁、週刊ポストは180頁であった。また2011年3月から2012年3月末までの原発関連著作の発行数では、講談社が67冊、小学館が13冊、文芸春秋が21冊、集英社が24冊、宝島社が41冊、光文社が9冊であった。原発プロパガンダの中心であった東電は事実上の国有化となり、原発はすべて停止させられた。電力会社は軒並み赤字となった。そしてあからさまな原発広告は姿を消した。のど元過ぎればの言葉通り、民主党政権が選挙で大敗し自民党安部政権が誕生した2012年9月から原子力ムラは息を吹き返した。そして事故後最初の原発広告の再開が、2013年3月24日に電事連と日本原燃が青森県のローカル紙東奥日報に掲載した30段広告(見開き全面広告)であった。原発プロパガンダの表看板神津カンナが話を聞く体裁で原発翼賛広告であった。「失敗こそ成功のカギ」とか「国家の自立にはなくてはない技術」というコピー文句には事故の反省が全くなかった。2014年1月から「週刊新潮」に不定期に掲載された電事連の広告は「原発が停止すると、割高な原油を購入しなければならず、国富のマイナス」という新しいロジックだが、逆に原油安が進行し電力会社は事故後はじめて黒字となったという皮肉な結果であった。このシリーズ広告は4回あり登場した著名人は、デーモン閣下、手島竜一(外交評論家)、舞の海、宮家邦彦(外交評論家)であった。タレントの発言は本人の考えではなく、コピーライターの書いたシナリオである。タレントは高額のギャラで出演するのだが、欄外に「提供:電気事業連合会」とあるので広告と分かるのだが、一見座談会風に作られている記事のように装っている「騙しのテクニック」が使われている。この広告費用はカラー版でゆうに1000万円を超えている。外交評論家の口を借りる態で、「複雑な問題に簡単に白黒をつけることに違和感を感じる」と反原発世論に対して説教をしている。3.11事故の前と後では広告の訴求点がどう変化したかを見てゆこう。事故前では
①原発は絶対安全、
②原発はクリーンエネルギー、③原発は日本のエネルギーんの1/3という3本柱が必ず盛り込まれていた。2000年以降はプルサーマルの宣伝に
④原発は再生可能エネルギーが追加されていた。
3.11後は電通や博報堂は次のスローガンを考えた。
①原発は日本のベースロード電源、
②化石燃料に頼る発電は炭酸ガスを排出する(環境に優しい)、
③経済発展にはエネルギーベストミックスが必要(原油輸入は国富の流出)
というフレーズに変えた。青森県の六か所村再処理工場を運営する日本原燃と、福井県の高速増殖炉もんじゅを経営する原子力研究開発機構(文部省系)には共通の悩みがある。それは巨額の投資を行いながら事故・故障で一度もまともに動いていないことである。六か所村は今まで2兆円以上の建設費を投入してなお19兆円の費用が掛かると試算している有様である。核燃料はワンパスが一番経済的で、再生事業は成り立たないと欧米では結論をだしているにもかかわらず、日本では止めないのである。だからプルトニウム核抑止力という軍事利用の疑いを世界中から持たれているのである。そういう事実を隠すかのように、青森県では広報活動が盛んである。青森県のテレビ3局とラジオ2局で提供番組を持っている。福井県では2015年2月8日に福井新聞の15段(片面全紙)広告を出した。「ガンの原因は生活習慣」といった根拠薄弱な主張、理屈を超えた安全性強調がそれである。ところが「もんじゅ」は1995年のナトリウム漏れ事故以来一度も運転していないばかりか、2013年に「無期限運転停止処分」を受け、運営者である日本原研機構の解体を勧告されていたのである。この厚顔破廉恥さにあきれ入るばかりである。3.11事故以来メディアも広告受け入れに慎重になり、原発の安全性を謳う広告がほぼ不可能になった。そこで原子力ムラは原発事故の矮小化と、「事故で放出された放射線の危険性は小さく、健康への心配はない」という「安心神話」の流布に切り替えた。高線量被曝は原爆と同様に死亡につながるが、低線量被曝は直ちに影響が出るというわけではなく一定時間が経ってガン発生につながることを無視して、影響はないと居直ったのである。福島県を中心に「復興対策費」から「健康不安軽減対策」や「風評被害対策」という予算が付くようになった。2014年9月福島県は中間貯蔵施設」の受け入れを決めた。県内で発生した汚染土や焼却灰を最長30年間保管する施設で、1兆1000億円の建設費が見込まれている。建設業者がにわかに色づき始めた。他の県ではそれらは「指定廃棄物」として最終処分場を建設しなければならない。2014年8月環境省が電通に委託して7億円で広告を作成したが、住民が「指定廃棄物は原子力施設で発生した放射性廃棄物ではありません」といった詭弁(原発の事故で漏れた放射性物質によって汚染された廃棄物であるにも関わらず)を弄したことに対して「国はウソを言っている」と反発し、9月環境省に修正をせまった。2012年ー2013年の環境省の廃棄物情報の広報に使われた広告費はすべて電通が受注し、合計41億円であった。

(つづく)



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