ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート C・リード著 彌永健一訳 「ヒルベルトー現代数学の巨峰」 岩波現代文庫

2015年09月30日 | 書評
20世紀を切り開いた「現代数学の父」ヒルベルトの評伝 第3回

序(その3)

(10の問題 つづき)
第6問題:物理学の諸公理の数学的扱い 「物理学は公理化できるか。」
ヒルベルトは「確率と力学」を物理学者による理論立てを数学者によって検証することによって仮説を立証するという一連のシステムの構築を望んでいた。 そのためこの第六問題は(確かに数学の範疇ではあるが)数学的問題を逸脱した部分が多く、数学と言うよりむしろ物理学に重きを置いている。そのため、その証明も力学や熱力学の権威の功績によるものが大きく、しかも「証明」というよりは「発展」に近いものである。
第7問題:種々の数の無理性と超越性
1.二等辺三角形の底角と頂角の比が代数的無理数(代数的数でありかつ無理数であるもの)である場合、底辺と側辺の長さの比は超越数か
2.自明な例外を除き、代数的数a、代数的無理数bに対し、a^bは超越数か
後者はアレクサンダー・ゲルフォントによって肯定的に解かれた。
第8問題:素数分布の問題、特にリーマン予想が正しいこと。すなわちゼーター関数という関数のゼロ点が負の整数を除いて、実部が1/2であること。
第9問題:一般相互法則
第10問題:ディオファントス方程式の可解性の決定問題
1970年、ユーリ・マチャセビッチが否定的に解決。ディオファントス方程式がどのような場合に整数解を持つかを決定付けるような一般的な解法は存在しないことを示した。
第11から第23の問題は表題だけを示す。第11問題:任意の代数的数を係数とする二次形式  第12問題:類体の構成問題 第13問題:一般7次方程式を2変数の関数だけで解くことの不可能性 第14問題:不変式系の有限性の証明 第15問題:代数幾何学の基礎づけ 第16問題:n次代数曲線および曲面の相互位置すなわち位相の研究 第17問題:定符号の式を完全平方式を使った分数式で表現すること 第18問題:結晶群・敷きつめ・最密充填(球充填)・接吻数問題 第19問題:正則な変分問題の解は常に解析的か 第20問題:一般境界値問題 第21問題:与えられたモノドロミー群をもつフックス型線形微分方程式の存在証明 第22問題:ポアンカレ―の保型関数による解析関数の一意化 第23問題:変分法の研究の展開

本書の著者コンスタンス・リードはアメリカの女性で、数学関係者の伝記作家として活躍した。妹に女性として初めて全米数学会の会長を務めたジュリア・ホール・ボウマン・ロビンソン(1919年 - 1985年)という数学者がいる。序に書かれた著者の言によると、本書はヒルベルトの学生たちによる手記によるところが大きく、とりわけヒルベルト60歳の誕生を祝して書かれたオットー・ブルメンタールの伝記記事や、ワイルによる本書に採録された「ヒルベルトとその数学的業績」が重要であったが、多くの数学。物理学関係者の記憶に基づいて(聞き取り)書かれたという。また本書は1970年ヒルベルトになじみが深いシュプリンガ-出版社から刊行され、日本語版が1972年彌永健一訳で岩波書店から刊行された。2010年7月に岩波現代文庫に入れられた。訳者彌永健一氏は日本の数学者彌永 昌吉(1906年4月2日 - 2006年6月1日)の長男と言った方が分かりが早い。健一氏も数学者で東京商船大学・商船学部・教授であり、フィールズ賞受賞者の小平邦彦を叔父に持つ彌永家は数学者一家である。健一氏はセールの「数論講義」の翻訳で有名である。本書を紹介するにあたって、文庫本にして425頁という分厚い量であるためと、私自身が数学をよく知らない(興味はあるがついてゆけないだけ)ので、いわゆる年譜形式でヒルベルトに影響を与えた人、影響を受けた人、ライバルたちの交友関係を中心にまとめ、そして数学的業績の簡単な記述をしてゆきたい。章別けの題名は本書からそのまま取り、それに年譜を添えて、交友関係と数学的業績を記すという形式で進めたい。

(つづく)


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