ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 岩本裕著  「世論調査とは何だろうか」 (岩波新書 2015年5月)

2016年07月09日 | 書評
国民の意志や意見を伝える世論調査は、民主主義社会の武器となりうるか 第7回 最終回

4) 調査結果を読む

安倍内閣の集団的自衛権に関する2014年春の各社の世論調査結果が違っていたことを考えてみましょう。読売新聞(産経新聞)の5月12日の記事では「賛成71%、反対25%」というもので、「全面的に使えるようにすべき」が8%、「最小必要限の範囲で使えるようにすべき」が63%、「その必要はない」が25%だったとしています。朝日新聞の4月7日の記事では、「行為容認反対」が63%、「行使できるに賛成」が29%でした。RDD調査方法は両者で同じです。この秘密は読売新聞の3つの選択肢のうち「中間的選択肢」である「最小必要限の範囲で容認」という条件付き賛成選択肢にあります。朝日新聞は「現在の立場を維持する」と「行使できるようにする」の2者択一です。統計数理研究所の調査では、米英では中間選択肢を選ぶ人は少なく、日本では中間選択肢を好む傾向にあるということです。またNHK放送文化研究所の実験調査では、普段あまり考えていない問題には、中間選択肢を選ぶ傾向が顕著になるということが確認された。また4月21日の毎日新聞の世論調査結果記事では、「限定容認」が44%、「全面容認」が12%、「認めず」が38%でした。新聞見出しは限定容認44%という表現でした。それでも読売新聞の限定容認63%とは20ポイントも少ないのです。やはり読売新聞の「最小必要限の範囲」というエクスキューズが聞いているようです。そして毎日新聞は5月からの調査では2択に戻しますと、賛成が39%、反対が54%となった。政府自民党の答弁においても、最低必要限の内容が不定で手探り状態であったため、どこまでの範囲で容認するかは今でも決まっていないので、回答者の中間選択肢は曖昧ならざるを得なかった。NHKの世論調査では5択方式にし、賛成を2つ、反対を2つという選択肢を設けたが、結果は賛成が合せて34%、反対が合せて41%だった。また25%は分からないとした。こうして読売新聞の世論調査結果に元気づけられた形で、安倍政権は7月1日集団的自衛権を限定的に行使できる閣議決定をした。上智大学新聞学科の渡邊教授は、世論調査で避けたい言い回しとして、
①場合によっては、
②慎重に検討すれば、
③必要最低限の、
④してもしかたない、
⑤事情があれば、
をあげ、必要最低限の文句は禁句だと言っている。世論調査の信頼性に疑問が起きる人も多いし、これでは科学的世論調査を行えば、国民全体の意見を代表する結果が得られるということに疑問符がつく。政治的な意図をもって世論を誘導するために、世論調査を行っていることになりかねません。この質問はこういう答えを誘導している可能性があるということになりかねない。新聞人の矜持が問われている。世論調査はよく考えていない人を追い込んで一定の見解へ導く世論誘導であって、国民の意見を客観的に調査しているのではない。その原因は何と言っても国民が日常よく考えていないことで、選挙でいうと浮動票が風に吹かれてどちらへ流れるかということであろう。誘導を狙ったと疑われるのは、前提条件が長い質問です。その説明が回答に影響を与える可能性は否定できない。5月12日の読売新聞の質問文、および朝日新聞の質問文は政府説明に近い長い説明でした。それに対してNHKは集団的自衛権の説明は入れていません。そしてNHKは「分からない」という選択肢も加えました。どちらの方向化に誘導されることを避けた処置です。内閣府が2014年に行った付帯「竹島に関する世論調査」では、竹島の歴史から説きおこし、まるで教科書とその試験のようでした。答えはすべて直前に示された資料の中にあります。施策を検討するためなら、逆に資料を見せないで質問したほうが、その時点で国民が持っている意識や知識を調査できると思われる。言い回しで注意しなければならないのは、「ダブルバーレル」といった言い換えや2つの表現法も禁物です。質問者が強調したい下心が見えてきます。また人は複数の選択肢を見せられた時、算所の選択肢を選ぶ傾向があり、いくつもの選択肢を聴いた時最後の選択肢を選ぶ人が多くなります。選択肢の順番も気を付けたい条件です。前の質問で持った印象が次の質問に持ち越され影響を与える場合を「キャリーオーバー」と呼びます。これも禁じ手です。これらはあるいみでは「心理学」の実験でよく問題にされることです。「調査主体によるバイアス」によって結果が違う場合があります。第2次安倍内閣の支持率調査ですが、読売新聞の調査では2013年1月で68%で大体60%前後を維持し、集団的自衛権の閣議決定後の2014年7月で48%に下がりました。これに対して朝日新聞は就任直後で54%、2014年7月には42%に下がりました。NHKや毎日新聞の調査結果は読売と朝日新聞の中間の数字が出るようです。主張がはっきりしている読売新聞と朝日新聞では回答者が協力してくれるのはその主張に賛成の人だろうと思われます。読売と朝日は日本の右と左を代表する新聞だからです。調査方法によってバイアスがかかり易いのです。方法としては面接法、配布回収法、郵送法、電話法の4つが主な調査法です。同じ質問文を使っても、調査方法が違うと直接比較してはいけないという世論調査のルールとなっています。特に答えにくい質問は「社会的望ましさ」、「宗教」、『政党支持」などです。知識を聴聞く質問は面接法か電話法で行うべきとされています。人がいると見栄が出る回答になり、書類郵送では本根が出やすい調査法も区別しなければ、又NHKの公的機関という立場によって、回答率が高くなる場合があります。お上の質問だから答えなくてはという意識が働くのでしょうか。いずれにせよ回答者の心理によって、質問内容によっては事細かにバイアスがかかるようです。

(完)


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