ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 伊東光晴著 「ガルブレイス―アメリカ資本主義との格闘」 (岩波新書2016年3月)

2017年05月30日 | 書評
戦後経済成長期のアメリカ産業国家時代の「経済学の巨人」ガリブレイスの評伝  第3回

第1部  アメリカの対立する2つの社会・経済思想とガルブレイスの経済学者としての出発
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1) アメリカの対立する2つの社会・経済思想  (その2)

 伊東光晴氏は、その国の経済学が広く注目を集めるか否かは、その国の経済の興隆と深く関係しているという。スポーツの実力がその国の国力に比例するのと同じことです。スミスからマルクスまでのイギリス経済学が世界の中心であったのは、イギリスが世界帝國として世界の1/4を植民地化していたからです。19世紀末からのドイツ経済の躍進を背景として、多くのアメリカの経済学者はドイツに留学していた。19世紀後半から20世紀の2度の大戦まではアメリカは文化や学問の点で欧州に比べると後進国であった。ではなぜアメリカはイギリス経済学を学ばなかったのかといえが、日本と同様にアメリカは後進国としての共感からドイツに学んだというべきです。アメリカ経済学会の創立者たち、セリグマン、イリ―、クラークなどいずれもドイツ留学組であった。彼らはハイゼンベルグ大学でドイツ歴史学派に学んだが、影響されるところは少なく、むしろイギリス古典派経済学のマーシャルの流れにあった。そのことは日本の経済学者のドイツ留学組についてもいえる。アメリカの輸入経済学が根付くのは、第2世代の、ヴァイナー、ナイトからで、イギリスのマーシャル経済学の精緻化と自由主義化を確立した。アメリカに独自の経済学がなかったわけではない。「制度学派」経済学が、ヴェブレンを創始者とし、ミッチェル、コモンズ、J・Mクラークの流れが作られ、アメリカの現実を実証的に捉え、そこから有益な政策を引き出すプラグマティズムの方法の上に立った。ヴェブレン(1857-1929)はイデオロギーとしての、ダーウィ二ズムと自由主義を否定し、現実を実証的に経験主義的に捉えることであった。19世紀後半のアメリカ経済は北部の工業発展が始まり、西部へ向けての鉄道建設、カルフォニアでの石油発見が経済発展を促した。広大な国土で分散した企業はカルテル形成やトラスト運動(企業合同)を結んで巨大化した。それはスタンダードオイルによる石油産業の独占化となった。鉄道会社を傘下に入れてコスト競争に競り勝ったのである。ヴェブレンが見たものは。このような人為的操作による巨大独占企業の成立と、不当利益と富の蓄積、圧倒的な富の誇示であった。ヴェブレンは1904年に「営利企業の理論」を著し、企業が金儲け中心の社会を作り出したことを批判した。ヴェブレンは産業界の技術者連合社会を提案したが、「銀行資本主義」がウォール街・財務省複合体の中心としてグローバリズウムの社会となった。制度学派の第2世代を代表するJ・R・コモンズ(1862-1945)は、労使関係の近代化と市・州行政府の改革を行い、アメリカ経営学の祖と言われるのは人材教育と適用に優れていたからである。ルーズベルト大統領のニューディール政策を支えたのも、コモンズの制度学派の人材であった。「ブレーン・トラスト」と言われるレイモンド・モーリー、レックスフォード・タグウェル、アドルフ・パーリの3人のコロンビア大学教授が中心であった。経済学者が現実苧経済政策にm関与し、政策効果をあげた好例となった。彼らが構想した社会改造論はカルテルやトラストを禁止したので、アメリカの保守層が最も嫌う政府の経済への介入による社会改造論は途中で違憲とされ葬られた。戦後のアメリカ経済学の躍進を準備したのは1930年代後半のハーバード大学大学院の学派であった。J・シュペンター、ゴットフリート・ハーバラ、エドワード・チェンバレン、アルビン・ハンセン、ワシリ・レオンティエクらの教授連である。そしてハーバード大学には世界の俊才が留学してきた。彼らは「ケインズ革命」時代に生き、ニューディールの革新的社会的担い手となった。そこから多くの経済学者が育っていった。サムエルソン、トリフィン、マスグレイブ、トービン、ベイン、ポール・スウィージ、ガルブレイスらが戦後の制度学派を担う論客になったのである。一番先に頭角を現したのがサムエルソンで、マーシャル理論をミクロ理論とし、ケインズ理論をマクロ理論とした。ヴェブレンに学んだガルブレイスは、まず英国ケンブリッジ大学に留学してケインズ理論を学んだ。

(つづく)




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