ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 森岡孝二著 「雇用身分社会」 (岩波新書 2015年10月)

2016年11月26日 | 書評
労働条件の底が抜け、企業の最も都合のいい奴隷的労働市場となり、格差が身分に固定される時代にしていいのか 第9回

4) 雇用身分社会と格差・貧困化

厚生労働省のホームページには「様々な雇用形態」について、正社員以外に、「派遣労働者」、「契約社員」、「パートタイム(アルバイト)労働者」、「短時間正社員(限定正社員)」、「業務委託(請負)労働者」、「家内労働者」、「在宅ワーカー」の7つを挙げている。又派遣労働者の雇い主はあくまで人材派遣会社にあるとしているが、実際に指揮命令を出している派遣先は無責任であることは妥当でない、派遣先と派遣元の双方が責任を持たなければならないという。つまりどちらの責任であるかは不明確であり、少なくとも派遣先が全責任を負わない働かせ方である。逆にいえば派遣労働者は派遣元にも派遣先にも何も言えない弱い立場に置かれていることになります。そしてこの雇用形態は今では雇用の階層構造や労働者の社会的地位と不可分の「身分」になっている。それぞれの雇用形態が階層化し身分化することによって作り出された現代日本の社会構造を「雇用身分化社会」となずけるのである。雇用身分社会の一つの帰結は格差社会の成立であった。これを「階層社会」と呼ぶ人もいる。2004年アメリカの貧困をえぐった、シブラー著「ワーキング・プア―アメリカの下層社会」という本が刊行された。貧困社会はあるべきものがないという意味で「デブリベーション 剥奪」と形容される。いわゆる人並みの生活条件が剥奪された状態をさすのである。ワーキングプアー層の生活水準は生活保護世帯よりも低位の水準になり得るのである。つまり最低時給と働く時間をかけた収入が、生活保護給付金(約月15万円)よりも低いのである。就業構造基本調査によると、非正規労働者数は1987年の850万人から2012年に2040万人に増加し、全労働者に占める比率は今や38%-40%までになっている。こうした非正規労働者の増加は、正規労働者の賃金を抑制することを通じて、低所得層(年収300万以下、全労働者の52%)の増加と中所得者階層(年収300万円―1000万円 19%)の没落を招いた。低所得層の拡大と貧困化、中所得階層の没落、高所得階層の縮小を伴っている。若年層(25歳以下)の非正規労働者比率は2012年に正規労働者比率を上回った。そして若年労働者の所得が目立って低下しており年収150万円未満層が43%を占めている。アメリカでは生活の基本的ニーズを満たす最低収入を277万円(4人家族)として貧困ラインを引くと、2012年で貧困ライン以下の人の数は約3100万人で、総人口の15%を占めた。日本の貧困ラインを仮に年収200万円以下とすると、2012年では1822万人(全労働者の33%)で、男女別でみると男性が15%、女性が56%を占め、うち非正規労働者数は1497万人(82%)で、男女別に見ると男性非正規労働者の75%、女性非正規労働者の85%が貧困層であった。人事院の標準生計費(4人世帯の最低生活費)である年250万円以下を第1貧困ラインとすると、719万世帯(29%)が貧困層である。大企業の経営者の年収入が近年大幅にアップし、会社の内部留保は2013年には328兆円の増加しているが、2000年以降従業員の賃金は景気拡大にもかかわらず抑え込まれた。大企業の社員の年間給与は2001年の612万円から、2009年の538万円に低下した。零細企業の従業員の年間給与は210万円ー260万円台で低迷している。つまり会社のみが潤って、従業員が泣く社会になってしまった。統計データから日本全体の動向を裏付けて見ると、民間給与の平均賃金は2002年までは450万円であったが、この10年で400万円まで下がった。雇用者報酬(労働者に分配された部分)は1997年に280兆円であったが、2013年には250兆円にまで低下した。名目賃金が低下し続けているのは先進国では日本のみである。1997年の平均賃金を100として、日本では長期にわたって低下し続け2013年では88となった。韓国は209、イギリスは170、アメリカは163、ドイツは133である。

(つづく)

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