ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 加藤典洋著 「戦後入門」 (ちくま新書2015年10月)

2017年06月19日 | 書評
安倍首相の復古的国家主義の矛盾を批判し、対米従属と憲法9条の板挟みであえぐ日本の戦後を終わらせる試論 第9回

第4部 戦後日本の構造 (その1)

 日本国憲法の格調高い前文には1941年8月の大西洋憲章、1942年1月の連合国共同宣言、1943年10月のモスクワ宣言、1944年10月のダンバートン・オークス提案、1945年6月の国連憲章と続いてきた「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想の実現を目指す」第1次世界大戦以来の国際社会の平和理念の流れが結晶しています。そして憲法9条に戦争の放棄がうたわれました。「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国産紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」 新憲法の策定を指示された1945年10月の時点では日米の認識には大きな隔たりがった。GHQは東久米内閣副総理近衛文麿(国務相松本烝治委員会)と幣原喜重郎首相に指示を与え、日本政府として2本立ての検討が始まりました。いずれの案も、日本の非武装、戦争放棄などは一顧だにしていませんでした。この状態を察したGHQは急きょ自分で草案の準備にかかりました。1946年2月末に予定されるソ連を含む極東委員会の前に憲法草案を作るべく、2月12日に完成させ13日に日本政府に開示された。2月3日に作業チームに示したマッカーサーの指示書は3項目からなっていました。①国民と憲法の下での天皇制の維持、②戦争の放棄、③封建制の廃止です。日本側の見込み違いは③の戦争の放棄に在りました。マッカーサーは戦争の放棄に関して「紛争解決の手段としての戦争の放棄のみならず、自国の安全を維持する手段としての戦争をも放棄する。防衛と保全はいま世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる」と考えていました。つまり進行しつつあった国連構想に合体させて日本の防衛を任せる考えです。2月13日のGHQ憲法草案の日本政府への開示検討時間は15分でした。これは大西洋憲章の最期の項目に述べられているように、侵略を試みた国(枢軸国)は、一般的安全保障制度(国連安全保障)が確立されるまでこれらの国に対する武装解除(非軍事化)は欠くことができないということです。1946年1月にうぶ声をあげた国連は、多くの難題を前にしていました。安全保障理事会が国連の共同軍事行動を検討し、原子力委員会の設置が決まったばかりでした。この意義を理解したのは当時の日本では、東洋経済新聞主筆の石橋湛山氏一人でした。憲法草案は日本政府の憲法改正草案要綱として1946年3月6日に公表されました。4月17日国民に憲法改正案が提示されました。世論調査では賛成70%、反対28%という戦争放棄条項への圧倒的支持が得られた。この戦争放棄を支持した勢力は、①GHQ、マッカーサーらの占領軍、②敗戦国日本の指導層の保革ニ様の考え(自衛権だけは否定されていないだろう)、③世界で唯一の戦争放棄条項を含む自衛権の放棄を全面的に支持する絶対平和主義知識人層であった。この憲法9条への支持はその後、安保闘争を経た60年代以降、いわゆる「護憲論」の形成母体になった。憲法制定後10年ほどは再軍備・軍隊保有のための憲法改正の賛否を巡って、世論は二つに割れました。この状況が変わったのは、1955年11月の保守合同で自民党が党綱領に憲法改正を掲げると、護憲勢力(9条改正反対)が多数を占める様になりました。憲法9条を支えた勢力の内、GHQの考えが冷戦のために急速に変質しました。1947年トルーマンドクトリン発表、1949年中華人民共和国の成立、1950年朝鮮戦争と続いたため、GHQは日本の再軍備へとかじを切りました。日本政府の保守層がこの流れに同調しましたが、対米従属派だった吉田茂の路線(吉田ドクトリン)が再び主流となり、国民の戦争体験にねざす平和主義を組み込むことで、安定した戦後政治の正統的経済優先ナショナリズム路線(保守本流)をつくりあげました。自主外交を目指す鳩山一郎氏、対米対等を目指す岸信介氏らの路線は、岸氏の強引な非民主的手法が60年安保で破綻し、吉田・池田・佐藤の路線が国民の支持を得て憲法擁護の流れも取り組んで、安定な保守本流の55体制をつくりあげました。それが高度経済成長路線に乗って豊かな国民生活の向上になりました。

(続く)
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