ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 吉田千亜著 「ルポ 母子避難ー消されゆく原発事故被害者」 (岩波新書2016年2月)

2017年05月15日 | 書評
子供を守るため自主避難した原発事故被害者への、住宅供給政策と生活支援策の切り捨て 第1回

序(その1)

 東電福島第1原発事故の直後から、子どもに対する目に見えぬ被曝を恐れて避難した人々のことを「自主避難者」と呼んでいるが、その人々は「原発事故後に、政府の支持もなく非難した自分を、誰が避難者として認めてくれるのか」という不安を抱えて5年間他府県で避難生活を余儀なくされている。「国会事故調報告書」を読むと、この事故の最大の要因は人災であったことを告発している。そして原発事故にまつわる不条理は、事故から時間がたつほど増え続けている。「自主避難」という言葉は「強制避難」に対しての言葉である。政府の指示によって強制された避難ではなく、「自らの判断で避難」したことであるので、「勝手に避難」したというニューアンスにとられて、支援対策の上で区別・差別されることになるので、むしろ「避難指示区域外避難」というべきであろう。またここで問題とされる被曝とは低線量被曝のことで後年になってガンなどの障害が発生する可能性がある被曝であり、原発関係者や核燃料作業者、原爆被害者のように直ちに生死にかかわることではない。事故直後から時の枝田官房長官はテレビで「直ちに生死にかかわる事ではありませんので・・・」とお念仏のように繰り返していた。だから安心できることではなく、「パニックに陥らず冷静に対応してください」と言いたかったのだが、はたして官房長官にどれほどの知識があっての発言なのか、政府から避難指示が出る前に、放射線プルーム(風向き、気流)によって飯館村のようにすでにかなりの高濃度被曝していた地域もあった。「自然放射線」とは福島県では0.03μSv/hr程度であり、その数十倍―数千倍の濃度の線量を被曝することある。避難指示のあった区域とそうでない区域では、国による支援施策や東京電力の賠償で明確に分けられている。避難区域と賠償内容は以下に示す。

① 帰還困難区域 年間積算線量50mSv以上の区域(双葉町・大隈町の大部分、浪江町・富岡町・飯館村・葛尾村・南相馬市の一部) 避難慰謝料月10万円 帰還不能・税活断念加算700万円
② 居住制限区域 年間積算線量20-50mSvの区域(飯館村の大部分、大熊町・浪江町・富岡町・川内村・葛尾村・川俣町・南相馬市の一部) 避難慰謝料月10万円(解除後1年まで)
③ 避難指示解除準備地域 年間積算線量20mSv以下が確実となる地域(南相馬市・楢葉町・葛尾村・双葉町・大熊町・浪江町・富岡町・川内村・田村市・飯館村・川俣村の一部) 避難慰謝料月10万円(解除後1年まで)
④ 自主的避難等対象区域 県北(福島市など)・県中(郡山市など)・相馬市・いわき市  避難慰謝料+生活費増加 子ども・妊婦48万円 避難68万円 そのほか大人8万円 雑費4万円
 
国の自主避難者対策の問題点は、第一に自主避難者の数を国は正確には把握していないことである。福島県は独自に自主避難者を調査したが、それも公表されていない。福島県以外(宮城県、茨城県北、栃木県北など)で自己申告していないとカウントもされない。第二の問題は、政府・福島県は「復興加速化」という名の下で、避難者の切り捨て(分母切り)を始めている、2015年6月福島県は「2017年3月末で自主避難者の借り上げ住宅の提供打ち切り」を発表した。約9000世帯、2万5000人が対象となる。これに対する抗議を受けて県は、引っ越し費用の負担や、2年間程度の一部居住費補助を決めた。原発事故から5年経って強制避難者や自主避難者の「強制帰還」、「強制退去」が行われようとしている。5年かかってようやく積み上げた暮らしが奪われ、「被曝を避ける権利」さえ奪われるのである。自主避難は夫を福島に残して母子避難した家庭のように、子どもの健康問題だけでなく、女性に大きな負担を強いるジェンダーの問題も色濃く含んでおり、母子家庭のような生活困窮化や家族の分散と別居生活を余儀なくさせた。

(続く)
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