ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 白井 聡著 「戦後の墓碑銘」 (金曜日 2015年10月)

2017年03月09日 | 書評
永続敗戦レジームのなかで対米従属路線と右傾化を強行する安倍政権の終末 第10回

2) 「永続敗戦レジームの中の安倍政権」 (その2)

② 「戦後レジーム/永続敗戦レジーム」からの脱却
2013年「現代思想」12月号に掲載された論文である。3.11東の本大震災と東電福島原発事故は自民党の保守権力にとってまさに「天祐」となった。時の政権が民主党政権だったことが、図らずも天が自民党に味方したようであった。大災害についても法則として、従来の権力、そして社会からの信頼を失いつつあった権力が力を取り戻すケースが多い(致命傷になる場合もあるが)。これまで原発をしゃにむに推進してきたエネルギー資源庁の官僚は無能を装って緊急対策をサボタージュし、民主党素人政権は沖縄基地代替え策で失敗し、それに加えて原発事故対応で右往左往しただけで国民の信頼を一気に失った。それが安倍第2次政権のカムバックに強力な支持を与えた。3.11を契機に戦後日本の国家と社会の本質が露呈した状況を「永続敗戦レジーム」と筆者は呼んだ。本質とは日本の戦後は「民主主義と平和」を表看板とする体制であるが、実は戦前戦中の権力構造が温存された「封建遺制」のことである。核燃料がメルトダウン・メルトスルーした福島原発事故の深刻性は日々否認され、そして2020年東京オリンピックで完全にお祭り騒ぎにして忘却の彼方に追いやろうとする権力の意図がひしひしと感じられる。国家指導権力者は行かなう手段をもってしても、自己の階級の温存継続を図るものであり、この自己保身のためには膨大な国民の命などは歯牙にもかけない連中の後継者が権力中枢を占拠している日本の支配体制を厳しく見つめなければいけない。

③ 面白うてやがて悲しきアベノクラシー

2014年「世界」5月号に掲載された論文である。日本の右傾化は安倍首相に始まるものではなく、戦後の歴史と共に常に底辺でうごめいてきた日本保守権力層の策謀であったことは、中野晃一著 「右傾化する日本政治」(岩波新書 2015年7月)に詳しく描かれている。安倍首相の「戦後レジームからの脱却」の軌跡を検証する。今回の第2次安倍内閣の誕生において強烈であったのは、まず「異次元の金融緩和」を中核とする経済政策兎=アベノミクスである。第1次内閣の時の失敗の轍を踏んで、政治イデオロギーの次元よりも経済的次元を前に出した点にある。2014年よりイデオロギー政策に重点が移ってきた。情報公開法を骨抜きにする特定秘密保護法、日本版情報局NSCの設置、靖国神社参拝の強行、など「戦後レジームからの脱却」政策が矢継ぎ早に打ち出された。日本の右傾化と対米従属路線は1960年岸首相の安保改定から始まり、佐藤首相の核密約付きの「核抜き本土並み」の沖縄返還、中曽根の「総決算」に至っては「不沈空母」発言に見られるように露骨な対米従属路線の強調にあった。安倍政権は戦後レジームの本質を理解していなかったという惨めな歴史認識問題と領土問題をさらけ出した。歴史修正主義とは日中・太平洋戦争における「日本の侵略性の否認」にある。ロシア。中国・韓国との3つの領土問題とは、「サンフランシスコ講和条約の否認」である。これはアメリカの許容する範囲内になければ、戦後の支配関係を否定することになりアメリカは黙っていないことになる。この歴史認識はよほど頭の混乱した知性のかけらもない人々でなければ、安倍首相と認識を共有できない問題である。この顕著な反知性主義を「アベノクラシー」と著者は呼ぶ。2013年12月安倍首相は靖国神社参拝を強行して、アメリカをして「失望した」と言わさせた。また従軍慰安婦問題でも軍の関与を否認した。そして「河野談話」、「村山談話」の見直しを匂わせて、訪米時にオバマ大統領から冷遇を受けて、2014年3月14日になって河野談話の継承を明言して初めて軌道修正した。こうした歴史問題の政治イデオロギーの次元において日米関係はまさに戦後未曾有の危機が生まれた。それに対して軍事面おいて日米緊密化の度を上げることでカウンターバランスを取った。2014年12月の「新防衛大綱」は日本版海兵隊を目指したもので、3つの領土問題の諸島での機動的体制の強化を企てている。緊密化の核心は、米軍と自衛隊の一体的運用であり、実質的には米軍の指揮下への服従である。しかるに米軍の軍事的プレゼンスの低下に歯止めがかからず、アメリカは「世界の憲兵である」ことを降りるというほどになった。アメリカにとって日本は軍需産業の買い手であるが、歴史修正主義でサンフランシスコ体制を否認することはアメリカは許さないだろう。安倍の「敗戦の観念的否認」という隠微な情緒は、アメリカにとって価値観を共にできる相手ではないと感じさせた。その証拠に安倍がオバマ大統領から冷遇を受けた後に、2014年6月の中国の習近平主席との会談が対照的に長かったのは偶然ではなく、アメリカは本当に中国と対話する姿勢に傾いているを示している。

(つづく)
コメント
この記事をはてなブックマークに追加