ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ホーキング著 林一訳 「ホーキング、宇宙を語る」(ハヤカワ文庫 1995年4月)

2017年01月04日 | 書評
宇宙の始まりと構造を問うービックバンとブラックホールの謎に迫る 第8回

5) 素粒子と自然界の力ー重力と4つの力 (その3)

電磁気力と弱い核力の統合に成功したことに刺激され、この二つの力と強い核力の「大統一理論GUT」といういささか誇張された理論が注目された。GUTの考えは、強いエネルギーでは強い核力は弱くなり、電磁気力と弱い核力は逆に講演江ルギーでは強くなるので、この3つの力はすべて同じ強さとなり単一の力と見なせるというものである。GUTの予測では1000兆ギガ電子ボルト程度になるというが、これは太陽系と同じくらいの加速器を必要とする。現行の粒子加速器はほぼ100ギガ電子ボルトで衝突させている。GUTを地球上で実験するのは不可能である。また理論は陽子が自発的に崩壊して、反電子のような軽い粒子になるというが、実験的に実証することはできないだろう。すべての銀河は反クォークではなくクォークでできていると信じられている。なぜ初期宇宙の粒子が同数のクォークと反クォークで出発しながら、クォークが圧倒的に多くなったのだろうか。逆説的に言えば同数のクォークと反クォークがぶつかって互いに消滅してしまうなら放射(光)で満ちているが、物質がほとんど存在しない宇宙が残されるからだ。そこには銀河も太陽も地球もそして人間という生命が発生する可能性のる惑星はなかったことになる。ごく初期の宇宙には高温の時期があった。クォークと反クォークではは働く物理法則が異なっていたと考える。その物理法則とはC.P,Tの別々の対称性である。対称性Cとは粒子にも反粒子にも同じ法則が働くとする。対称性Pとはいかなる状況でもその鏡像について法則が同一である。対称性Tとはすべての粒子と反粒子の運動の向きを逆にすれば、系はもとあった状態にもどる。1956年3人の中国系アメリカ人であるリーとヤンとウーは弱い力は対称性Pに従っていないと唱えた。放射性原子の核を磁場の中にならべてすべてを同じ方向に自転させるようにすると、電子がある方向に多く放出されることで実証された。つまり弱い力のために反粒子で構成された宇宙は、我々の宇宙とは異なったようにふるまう。さらに1964年アメリカのクロ―ニンとフィッチがK中間子の崩壊はCP対称性にも従っていないことを発見した。数学理論では量子力学と相対論に従う理論は、組み合わされた対称性CPTに常に従わなければならない。時間の向きを逆にすると、前向きでは宇宙は膨張し、後ろ向きでは宇宙は収縮するので対称性Tに従わない。宇宙が膨張するにつれて電子が反クォークに変わるよりもさらに多数の反電子がクオークに変わることができたのである。この大統一理論には重力が含まれていない。しかし十分な量の物質粒子があれば、重力は他のすべての力を圧倒することができる。重力が宇宙の進化を決定しているのはこのためである。

(つづく)