ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 広井良典著 「ポスト資本主義ー科学・人間・社会の未来」 (岩波新書 2015年6月)

2016年09月14日 | 書評
拡大・成長を追い求める超資本主義の限界と、定常化・持続可能な福祉社会の構想 第9回

第Ⅲ部 緑の福祉国家・持続可能な福祉社会 (その2)

今後取るべき方向の二つの柱①過剰の抑制、②再配分の強化・再編について、後者の格差が拡大する中での分配のあり方を考えよう。社会的セーフティネットを三層で考えると、事前から事後の対策という考えで、①雇用、②社会保険(健康保険・失業保険、年金など)、③生活保護(公的扶助)と分けられる。資本主義の発展の中で、③→②→①という順で整備されてきた。むき出しの資本主義国アメリカyイギリスでは、救貧法や貧しい人にたいする慈善的な保護の手③しかない。①と②は自己責任で対処しろという。社会保険は19世紀後半のドイツのビスマルクが創設した社会保険制度が始まりである。資本主義はさらに進展し、1929年の世界恐慌が先進国を襲うと、「ケインズ主義的福祉国家」は政府が公共事業や社会保障を通じて市場に介入することで、①の雇用を創出するのである。これは資本主義の根幹にかかわる修正でありケインズ主義の理念は「修正資本主義」と呼ばれた。資本主義の歴史的な進展の中で、政府による市場経済への介入が資本主義の根幹部分へと進行した。危機に瀕した資本主義は修正を順次事前的(根幹)なシステムに及ぼして生き残りをかけた。いわば資本主義がそのシステムを順次「社会化」してきた、あるいはシステムの中へ社会主義的な要素を導入してきたと言える。ポスト資本主義の段階において、根幹部分における社会化政策を考えよう。それは次のような内容である。①「人生前半の社会保障」における共通のスタートライン、ないしは機会の平等、②「ストックの社会保障」の社会化、資産の再配分(土地、住宅、金融資産)、③「コミュニティというセーフティネットの再活性化である。これまでの福祉国家の基本は、個人が市場経済の中で自由な経済活動を行うことを前提としたうえで、そこから生じた格差を事後的に修正を加えるものであった。ここで社会を構成する単位を個人とするか、家族とするかで見解が分かれる。相続および親からの継承という点は最後まで「私的」な領域として残され公的な関与(相続税)は制約されてきた。現実には格差の相続ないしは累積(貧困の連鎖}が如実である。個人尾「機会の保障」という、資本主義的な理念を実現するためにスア会主義的な対応が必要になる。逆説的に言うと、個人尾自由の保障は自由放任では実現せず、社会的に保障する必要がある。そこで①「人生前半の社会保障」(障害、家族、雇用政策、失業対策、住宅など)のOECD先進国比較を行うと、GDP比でいうと、日本はアメリカよりもお粗末で4%%以下で、欧州各国では8%以上となっている。公的教育支出の対GDP比は、日本が3.6%でOECD加盟国(平均が5.3%)では最低である。理由は小学校以前と大学以降の教育費割合が低いのである。また世代間の配分の配分のありかたでは、社会保障全体の対FDP比は日本は23%とアメリカ、イギリスに次いで最低であるが、さらに高齢者年金関係の割合が10%と高いのである。北欧では高齢社以外の社会保障が手厚く、日本では逆になっている。とはいえ高齢者年金においても格差が拡大している。厚生年金の報酬比例部分が高いので過剰にもらえる人と、国民年金の基礎部分だけの人ではかなり年金支給の差がついている。全体として日本の年金は世代内と世代間の双方において逆心的な格差を拡大するような制度になっている。そこで著者は基礎年金を分厚くし、報酬比例部分を小さく修正する案と、相続税と高額年金課税率を上げその税収を「人生前半の社会保障」に充てる政策を提案している。つぎに②「ストックの社会保障」の再配分については、高度経済成長期ではフロー(GDP)の増加が顕著であったので、ストック(土地、金融資産)は相対的に低かった。しかし社会が停滞期になりフローはの増加率が低いので相対的のにストックが重要になってくる。これをピケティの説によると「議論の出発点となるのは、資本収益率(r)と経済成長率(g)の関係式である。rとは、利潤、配当金、利息、貸出料などのように、資本から入ってくる収入のことである。そして、gは、給与所得などによって求められる。資本収益率(r)は平均で年に5%程度であるが、経済成長率(g)は1%から2%の範囲で収まっていることが明らかになった。このことから、経済的不平等が増してゆく基本的な力は、r>gという不等式にまとめることができる。」となる。日本では2009年の年間所得に関する格差を表現するジミ係数は0.311であったが、貯蓄のジミ係数は0.571、住宅・土地資産のジミ係数は0.579である。フローないし所得の累積と親から子への相続を通じて格差が拡大してきた。ストックないし資産を私的領域に委ねるか、一定の公的な規制を加えるかが資本主義と社会主義の基本的な分岐点である。土地の大半が私的所有であるアメリカや日本に対して、欧州では土地の公的所有の割合が相対的に高い。ストックの社会保障として、土地家屋のシェアー経済を巡る議論が深まるであろう。低成長経済下では起業家は金利生活者に転身する。起業家がいなくなると資本主義は終焉する。つまり資本主義的な理念を存続させるために、社会主義的な対応が必要となる。資本主義と市場経済は対立し寡占状態から市場の自由が抑圧されている。これらを資本主義の自己矛盾と呼ぶ。日本の税制の歴史を見ると、明治期は土地への課税「地租」がメインであったが、工業化産業化時代には「所得税・法人税」に変わり、1980年以降の消費社会においては「消費税」が導入された。停滞期・ポスト工業化時代には「資産課税・相続税」、「環境税」、「土地課税」に変わってゆくであろう。これらを総合してポスト資本主義は「資本主義・社会主義・エコロジーの交差」という時代になろう。

(続く)