ブログ 「ごまめの歯軋り」

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吉田武 著 「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」 (東海大学出版部 )

2016年05月29日 | 書評
全人的科学者よ出でよ! 好奇心に満ちた健全なる精神を持った人のために 第25回 最終回

第Ⅲ部 振り子の物理学

第12章 波と粒子ー量子力学(その5)


電磁場は無限個の調和振動子に等しいことを先に示した。そして光も電磁波であったことが示された。そこで量子力学における調和振動子の量子化を行おう。古典力学での調和振動子の運動方程式はD^2x=-ω^2xであり、(D+iω)(D-iω)x=0 調和振動子の全エネルギーは、E=p^2/2m+(1/2)mω^2x^2(p=mv →mDx)であった。Eを因数分解すると、(1/2m)(ip+mωx)(-ip+mωx)となり、b=(1/√(2m)((ip+mωx) b*=(1/√(2m)(-ip+mωx)と定義すると、全エネルギーはE=b・b*=|b|^2となる。ここで強引に量子化演算子を導入する。x'=x×、p'=-ih'Dで置き換え、量子力学的演算子a',a'†(量子力学的共役複素数記号†はダガーとよむ)を、a=(1/√(2mh'ω))(mωx'+ip')、a'†=(1/√(2mh'ω))(mωx'-ip')を定義する。位置演算子x'と運動量演算子p'は、x'=√(h'/2mω)(a'+a'†)、p'=-i√(h'/2mω)(a'-a'†)となる。ここで演算子a',a'†の互換関係を調べると交換可能でないことが容易にわかる。固有方程式はH'φ=Eφ ただしH'=h'ω(N'+1/2) N'=a'†a'である。N'演算子は「数演算子」と呼び、a'は「消滅演算子」、a'†は「生成演算子」と呼ぶ。こうして固有方程式はH'φ=h'φ(N'+1/2)φ=h'ω(n+1/2)φ=Enとなる。n=0を基底状態として、(1/2)h'ωをゼロ点エネルギーと呼び、(3/2)h'ω,(5/2)h'ω,(7/2)h'ω・・・という飛び飛びのエネルギー値をとる。エネルギーh'ωの粒子がn個存在することで、アインシュタインの光量子仮説に他ならない。「数演算子」N'は光子の数を表すのである。つぎに本書はファイマンの量子電磁気学について述べているが、これはR・Pファイマン著 釜江常好・大貫昌子訳 「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」(岩波現代文庫)に詳しいし、吉田武氏の演算の独自性はなくファイマン説の紹介に過ぎないので割愛する。そして最終節「場の量子論」に入る。アインシュタインの「特殊相対性理論」はニュートン力学をマックスウエルの電磁気学基礎方程式と同じ変換則「ローレンツ変換」に従うように作り変えたもので、電磁気学と極めて相性がいい。ディラックは「相対性量子力学」を作り上げた。プランクの定数h'と光速度cが同じ方程式に同居する「相対的波動方程式」いわゆる「ディラック方程式」を作った。数学の様式美を追求しその成果は、電子スピンの理論、反粒子の存在など多くの副産物を生んだ。粒子の生成消滅を扱うためには、先に見たように電磁場の量子化という「生成・消滅演算子」の因数分解により、電磁場を量子化し粒子数の増減を含む理論として「量子電磁気学」が必要であった。量子電磁気学の成功は、場の量子化をもたらした。電子は古典的な粒子ではない。電子を電子場の量子として捉え、それから陽子場、中性子場、中間子場として考えることができるようになった。場同士の相互作用が物理的な実態であり、その場にその力を仲介する「媒介粒子」が存在するということが規範の見方になった。これを「場の量子論」という。ニュートン力学は「遠隔作用」の肝上げで理論が構成されている。波を伝える要素「近接作用」のように何かが起れば順にそれを伝えてゆくそういう空間を「場」と呼んでいる。場には過去の履歴が準備されている。重力場、電磁場など構成された作用に従って現象が生じるという考えである。重力や電磁気力を波動として伝える媒質、それは現代物理学では「真空」と呼ばれる確かな存在である。場の量子論では考察対象である粒子が何もない空間を真空と呼ぶ。それは最低のエネルギー状態を意味する。あらゆる粒子が生まれる場である。真空にエネルギー光子を与えると粒子に変身する。これらを「対消滅」、「対発生」という。R・Pファイマン著 「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」に詳しく描かれている。不確定性原理はエネルギーと時間に関して、ΔEΔt≧h'/2という関係をいう。幅を持った関係である。真空はエネルギーを得て粒子を生成し、消滅させて元に戻ることができる。エネルギー固有値がnh'ωである状態はn個の光子が同じエネルギーレベルの存在することである。いくつでも同じ状態に存在できる粒子を「ボース・アインシュタイン統計」に従う粒子「ボソン」という。それと反対に電子は同じ状態に2つとしてはいらない性質を「パウリの排他原理」といい、これを満たす粒子は「フェルミ・ディラック統計」に従う「フェルミオン」と呼ぶ。電子はフェルミオンの代表であり、陽子や中性子はスピン値を持つフェルミオンで原子あるいは広く物質はフェルミオンから構成されている。スピンが整数値を持つ粒子はボソン、半奇数値を持つ粒子はフフェルミオンとなる。光子のように「生成・消滅演算子」は、ボソン一般に利用しうる。素粒子論における現在的問題は、南部陽一郎著 「クオーク」、小林誠著 「消えた反物質」(講談社ブルーバックス)を参考にしていただくとして本書の紹介は終了する。

〈完)