ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 稲葉剛著 「生活保護から考える」 岩波新書(2013年11月)

2015年02月01日 | 書評
最後の砦である生活保護の基準引き下げは、社会保障制度崩壊の始まり 第5回

1) 崩される社会保障の岩盤 (生活保護基準の引き下げが意味すること)

 政府の御用新聞として「読売新聞」、「産経新聞」が有名ですが、2012年10月17日産経新聞の記事に「働いたものがバカを見る制度」として生活保護法をパッシングしています。記事の後半には自民党「生活保護に関するプロジェクトチーム」の世耕議員が、生活保護基準の引き下げだけでなく、食事や住宅扶助の現物支給を主張していることが紹介されていました。2012年12月に政権復帰した自民・公明政権は「生活保護基準は高すぎる」という「世論」を背景に生活保護基準の大幅削減に乗り出しました。自立生活サポートセンター「もやい」はサポートを受けている人に、2010年8月「熱中症に関するアンケート調査を実施した。暑さで体調を崩した人は46%に上りました。電気代を節約しようとしてクーラーの使用を控えたことが深刻な健康被害をもたらしている。生活保護利用者がクーラーを保有することは禁止されていません。「家具什器費」を支給する仕組みはありますが、福祉事務所の現場においてはクーラー・テレビはぜいたくだとして認めない傾向にあります。2010年「もやい」は低所得者の熱中症対策として「夏季加算」の新設を厚労省などに要求しました。生活保護制度には「冬季加算」という暖房費を支給する制度があります。当時の長妻大臣はこれを検討するとしましたが、それ以降立ち消えになった。2012年5月の芸能人の親族の生活保護りようが報じられてから、「生活保護パッシング」と呼ぶ現象が始まった。このパッシングを主導したのは自民党の国会議員であり、パッシングにより生活保護制度や利用者へのマイナスイメージが基準の引き下げの地ならしをしたといえる。2013年1月29日安部内閣は生活保護費のうち生活扶助費を2013年8月から3年間かけて段階的に約740億円削減することを閣議決定しました。生活保護制度は生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8つの項目によって構成されている。生活扶助費は衣食光熱費を現金で扶助するもので、直ちに生活レベルの低下につながります。約25%の世帯では5-10%が削減されることになります。小泉内閣の時、生活保護の老齢加算、母子加算の廃止になっています。政府は2008年から2011年の消費者物価指数が4.78%下落したデフレ論から引き下げ基準を設定しました。ところが消費者物価指数の下落傾向を引っ張ったのは、家電、家具類、教養娯楽費でした。光熱費は逆に増えています。食費はほとんど変わりません。生活保護利用者は家電や家具、教養娯楽には金を使いません。このように政府が生活基準を削減する理由としているデーターは虚構であり、生活保護世帯の支出の特徴を全く考慮していません。都合のいいデーターのつまみ食いに過ぎないのです。この保護基準の引き下げによって、生活保護世帯の生活状況の悪化をもたらすだけでなく、生活保護ギリギリの「ボーダー層」(ワーキングプアー)が排除されることになります。特にそのしわ寄せは子供の教育に寄せられます。つまり子供の貧困が加速し将来貧困から抜け出す手立てを奪っています。生活保護制度を活用することで最低生活費との差額分をの現金支給を受けているワーキングプアー層が切り捨てられます。

 生活保護法第4条には、保有する資産、働ける能力、年金などの他の制度を優先して活用し、それでも収入が基準以下であれば足りない部分だけ保護費の支給を受けることができます。これを「補足性の原理」といいます。ですから生活保護制度は市民生活を下支えする「社会保障の岩盤」と呼ばれます。生活保護基準の引き下げによって排除されるワーキングプア層には、生活保護の制度が利用できないため医療費、健康保険料、介護保険利用料、保育料などが自己負担となります。またケースワーカによるサービスも利用できため「孤独死」の危険性が高まります。これを「他制度波及問題」と呼びます。生活保護基準の引き下げによって38種類の制度が影響を受けます。個人住民銭非課税限度額は生活保護基準と連動しています。就学援助制度(2011年度で157万人が利用している)で切り捨てられる児童が数万人出る可能性があります。さらに最低賃金も上昇が止まる可能性があります。「逆転現象」の解消には生活基準を引き下げるのではなく、最低賃金を引き上げるべきなのです。国際的にみて日本の最低賃金の水準が低すぎるのです。また日本の生活保護制度は資産条件が厳しすぎます。「すっからかん」にならないと支給を受ける要件にならないのです。また保護利用者は借金も禁じられています。2012年10月財務省は社会保護の医療扶助が高額になっているので、医療費無料という制度を改め、一部自己負担、後発医薬品の利用を呼びかけ、厚労省の政策に踏み込みました。2013年度より厚労省は「後発医薬品の原則化」を導入しました。生活保護世帯は医療か食料かと言えば、当然食料を優先しますので医者に行かない人が多い。医者に行く時は病状は悪化しており医療費が高額になるという悪循環になっています。生活保護基準の引き下げは最低生活費という国の貧困ラインが後退することになり、貧困対策の空白地帯が広がることになります。最低生活費は所得補償における「ナショナルミニマム」と呼ばれます。ナショナルミニマムとは、国が国民に対して保障する生活水準の最低限度を意味します。2009年12月の民主党内閣の時厚労省で「ナショナルミニマム研究会」が開催され、反貧困ネットワークの湯浅氏、雨宮氏らが委員として参加しました。2010年6月に中間報告を出しましたが、以後なしのつぶてになっています。2013年8月第1回目の生活保護基準の引き下げが行われました。性fは2014年4月と2015年4月にも第2回、第3回の引き下げを予定しています。アベノミクスによる物価上昇が背後から襲うことになれが、生活はダブルパンチを受けます。夫婦と子供2人の世帯では現在22.2万円を受給していますが、2013年度第1回の引き下げで6000円減額、2015の最終的な削減額は2万円となります。母一人子一人の世帯では現行15万円が最終的には8000円の減額となります。70代単身世帯では現行7,7万円が最終的に3000円の減額です。

(つづく)