ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 福山哲郎著 「原発危機ー官邸からの証言」 ちくま新書

2013年04月13日 | 書評
原発というモンスターと闘った官邸の風景 第7回

2) 闘いの舞台裏  (2)
SPEEDI

 原発から放射性物質が放散されたときそれが気象条件などでどうのように拡散するかを予測するのが、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)だった。文部科学省の委託で原子力安全技術センターが運用し、原子力安全委員会の指針で緊急時避難などを判断する際に活用されることが目的であった。しかしSPEEDIのデータが始めて公表されたのは3月23日であった。もっと早く公表すれば避けることの出来た被曝があったのではないかと政府は激しく批難された。しかし停電によって東電事業所内の8箇所のモニターポストも同時に動かなくなっており、情報通信は途絶した。私事であるが、地震翌日に福島県原子力センターのサイトを見たが11日から空白となっていたので、茨城県東海の原子力センターの発表する線量モニター結果を参考にせざるを得なかった。(2012年9月9日のデーターでは双葉町で25μシーベルトであった) しかし停電とSPEEDIの稼働は関係ない。私はSPRRDIの詳細は存じていないが、私事であるが日本化学工業協会のPRTR関連化学物質のリスク評価を担当していたときに、このSPEEDIに似たプルーム解析システムを用いて化学物質の拡散影響を検討した経験がある。基本的に同じような解析プログラムだと思うが、これにはまず物質の放出量(原発でいえば放射能物質の放出量)を入力しなければならない。それから統計的な気象条件(原発でいえばその日の気象条件)を入力し、評価する地形の条件(山、谷、建物など気流障害物)を入力してコンピューターシュミレーションを行なう。事故であるので物質の放出量を正確に求めることは不可能かもしれないが、放射性物質の放出量を想定できなければこのSPEEDIシステムは計算のしようがない。いろいろな事故想定モデルにおける放出量を仮定して、数種のモデルについて事前にモデル計算は当然なされているはずである。

 汚染の方向と地域はそのときの風向きが支配し、汚染濃度は放射性物質の放出量が一義的に支配する。爆発当時風向きは海側から北西方向に吹いていた。従って今日計画的避難地域の飯館村方向の濃度が最も高かったことは自明である。又ここで注意しなければならないことは、SPEEDIとモニターシステムとは無関係であることだ。両者の結果を照合する必要は有るが、SPEEDIは環境モニターシステムのデータと連動するのではなく、放出量さえ入力すれば拡散の予測はできる。SPEEDIデーターが遅れた理由と事故時の停電とは全く無関係である。SPEEDIは施設ではなく拡散予測プログラムである。パソコンでも出来る操作に過ぎない。私見では有るが、あまりの恐ろしい結果が予測されるので、公表を躊躇ったに過ぎないと思われるがいかがであろうか。この程度の指摘を官邸に行なわなかった科学者・技術者の無責任・無作為は厳しく問われなければならない。政治家は同心円で汚染を考えざるを得ないが、緊急時の汚染は風向きで支配されるのでその方向への避難を避けるなどの配慮が必要となる。私見であるが、今回のSPEEDI騒ぎにはどこか腑に落ちないというか、間違った事を議論しているように思える。枝野長官も福山副長官もこの時点ではSPEEDIの存在に気がついていなかったという。当然であろう政治家が一つのコンピュータープログラム(ソフト)の事を知らなかったとしても何ら不思議は無い。福山副長官がSPEEDIの存在を明確に意識したのは、東大の小佐古教授の指摘により18日ごろであったという。SPEEDIは文部省が所管し、原子力安全委員会と保安院の緊急時対応センターが評価することになっていた。官僚機構の隙間にこのSPEEDIが落ち込んだことが、誰も気がつかなかったことの一因かもしれない。
(つづく)

文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年04月13日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第104回

* KHM 189  お百姓と悪魔
愚かな悪魔が悪知恵のあるお百姓に騙されるという笑い話です。百姓が悪魔と取り引きをして、地上にある物は悪魔の物、地下にある物は百姓の物と決めました。百姓は蕪の種をまいておいたのです。そして百姓は地下の蕪を収穫しました。怒った悪魔は今度は地上にある物は百姓の物、地下にある物は悪魔の物と決めました。百姓は小麦の種をまきました。百姓は狐はこうしていじめてやるもんだと笑いました。悪魔は悪い者だから騙してもいいという倫理があります。

* KHM 190  つくえの上のパンくず
雄鶏が女房の雌鳥に机の上におかれたパンくずを食べようと誘いました。いえのおかみさんが帰ってきて棒でさんざん鶏を蹴散らしました。雌鳥は「グゼ、グゼースト、アーベル」(コケコッコー、それみたことか)」といい、雄鶏は「ハーン イス ニト グエスト(おんどりのせいじゃないよ)」と鳴きました。鶏の鳴き声に意味を持たせる話です。ドイツ語がわからないと理解できませんが。

* KHM 191  あめふらし
末子成功譚の話です。ある国の王女様は気位が高く、どこでも良く見える12面の窓を持つ塔に住んで、王女様に見つからないで体を隠せた者はお婿さんにするが、見つかったら打ち首にするといいます。これまで97人が打ち首になりました。そこへ三人兄弟が運試しにやってきました。長男はすぐ見つかり98人目の打ち首に、次男も見つかり99人目の打ち首になりました。猟人の末弟は途中で鴉、魚、狐の命を殺さなかったので命拾いをした動物は末弟を助けるといいます。まず鴉は卵の中に隠れよと指示しますがこれは見破られ100人目の打ち首になる所を再チャレンジを許され、魚の腹の中に隠れてこれも失敗し、再再チャレンジを許され、狐は商人に末弟はアメフラシ(かたつむり)に化けて城には入りました。商人はこっそりアメフラシを王女様の髷の中に隠しました。王女様は窓から見つけられません。元の体に戻った末弟は王女様と結婚しました。
(つづく)