ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月14日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第3回

序(3)
 1930年代を「経済学の第1の危機」と命名すると、ケインズサーカス(ケインズ経済学を受け継ぐ経済学者のサロン)の故ジョーン・ロビンソン(1983年死去)は現在の状況を「経済学の第2の危機」と呼んだ。経済学の理論的枠組みが現実の制度的・経済的諸条件を適格に反映するするものでなく、政策的・制度的帰結が往々にして反社会的な結果(失業・貧困・格差・・・)をもたらすからである。このような経済的不均衡(均衡があるというのが古典派経済学の特徴であるなら、ケインズ経済学は(不平衡・不可逆の)経済過程がどのようなプロセス(ダイナミックプロセス)を経るかとする適格な理解と、より正確な現状分析か可能とする新しい理論の枠組みの構築に貢献するのではなかろうかと、著者宇沢弘文氏は期待している。「一般理論」は極めて難解な書物で、アメリカ・ケインジアンの考えはヒックスの「LS・LM分析」が有名であるが、これはケインズの考えを正統的経済学の「均衡分析」の中で理解するものである。しかしもともとケインズ経済学の「一般理論」の出発点は、現代資本主義の制度には本来不安定要因が内在し、自由放任の帰結として失業とインフレの可能性が常在し、景気の長期停滞と所得の不平等が必然的に起らざるを得ないという意味で、不均衡過程の動的分析にあった。だからケインズ経済学の「一般理論」は現在資本主義の問題解決学となりうるのである。そういう意味で本書を読む現代的意義が存在するという。ケインズが「雇用・利子および貨幣の一般理論」で持っていたヴィジョンを問い直すことが重要である。
(つづく)


読書ノート アダム・スミス著 「国富論」 中公文庫(1-3冊)

2013年03月14日 | 書評
古典経済学の祖アダム・スミスが説く社会的生産力の構造と近代自由主義 第54回

第5篇 国家の収入(財政策)
第2章 社会の一般収入あるいは公共収入の財源について(4)
[第3項] 労働の賃金にかける税


 労働の賃金にかける税は、労働需要と食品価格が変わらぬ限り税額の比率以上に賃金を高め、結局商品原価を高くして消費者か地主が支払うことになる。今日賃金の高い地域の企業は国際競争の圧迫から、よりやすい賃金を求めて海外へ移動する傾向にある。この国内労働需要の減退には為替レートや各種社会保険の負担も絡んでいるので単純ではないが、労働賃金にかける税金は企業の存立を危くするとスミスは警告している。労働問題の根源となる諸事情が複雑に作用するが、スミスは労働問題に詳細に言及することはまれで、これが自由主義者スミスの単純脳の為せる限界であろうか。
(つづく)

文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月14日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第75回

* KHM 112  天国のからさお
 お百姓がこぼした蕪の種から芽が出て伸びるわ伸びるわ天まで届いてしまいました。お百姓は天国見物に登ってゆきましたら、天国では天人らがカラス麦を打っていました。見物するうちに登ってきた木がぐらぐらするので下を見ると誰かが斧で木を切り倒そうとしていました。お百姓はあわてて天国にいた証拠として鶴嘴とからさおをつかんで下りてきました。ほら話の類です。英国の童話「ジャックと豆の木」もこの類です。

* KHM 113  王さまの子どもふたり
 この話は大きくは3つの部分に分かれる。前半は鹿の姿をした魔法の大男が王子様をさらって自分の城へ連れてゆき、三人娘の寝ずの見張り番をさせる話です。クリストッフェルの像の助けで3日間は寝ずの番は代返でやり過ごします。次の3つの難題はアルウェッゲルス(地もぐり一寸ぼうし)の助力でクリアーできました。2つめの話は王様から逃れる王子と末娘の逃亡物語で、娘の魔法で棘とバラの花、教会堂と牧師、池と魚に化けて王様の追っ手をやり過ごしました。3つ目は末娘がお母さんから貰った3つの胡桃の実にの助けで王子様と結婚できる話です。お姫様を村の小屋において自分の城に帰った王子様は記憶喪失のように娘の事を忘れ、別の国のお姫様と結婚式を挙げる手はずとなり、娘は胡桃の実が出す衣裳のお陰で王子様の記憶を取り戻すという無理な筋書きの話です。いろいろな話の手法を結合し、王子様と魔法使い一族の末娘とめでたく結ばれるまでの長いお話しです。題名の「王様の子どもふたり」は、なぜふたりなのか理解できません。
(つづく)