ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート むのたけじ著 「希望は絶望のど真ん中に」 岩波新書

2012年05月16日 | 書評
この世界から戦争をなくするために、日本人は本当の反省と努力を 第5回

1)人類はなぜ戦争をするようになったのか (2)
 人類が戦争を始めた記録は、紀元前3500年ごろチグリス・ユーフラテス川領域に出来たシュメール人の都市国家である。楔形文字で粘土に彫られた「ギルガメシュ叙事詩」に戦争の様子が描かれている。人類の最大発明である文字は文明を一気に開化させた。5500年前のメソポタミアの楔形文字、5100年前のエジプトのヒエログリフ文字、3200年前の中国の甲骨文字、3000年前のフェニキアのアルファベット文字が古代文明を開いた。「文明culture」とは耕すという原義である。農耕は人の世をすっかり変えた。生産量を増やすために科学的知見を増やし、余った生産物は蓄えられて富となり、それらを管理するために国家機能が整備されていった。こうして富は権力を生み、権力は国家を強化した。富をもっと拡大するための手段として略奪を憶えて戦争ということに夢中になった。戦争という手段が最も手っ取り早く私有財産の拡大に役立つことがわかって、国家機能はすべて戦争に集約されていった。まるで人は戦争をするために生きているかのように。1492年コロンブスの新大陸発見(先住民がいたので結局虐殺がおもな目的)以来、「大航海時代の始まり」は「大略奪・虐殺時代の始まり」となった。スペイン人がどれほど先住民インディアンを殺したかは、ラス・カサス著「インディアスの破壊についての簡潔な報告」(岩波文庫)を読まれたい。この略奪戦争は産業革命後「重商主義」という国家援護を受けてもっと大規模となり、19世紀半ばから「帝国主義」に変わってゆく。戦争が組織的になりかつ国家的目的となった。そのための軍隊・艦隊の創設拡大が盛んとなった。日本は遅ればせながら19世紀後半に列強の圧力で開国し、先進欧米諸国を見習って帝国主義的な国家経営の時代に入った。
(つづく)

読書ノート 斉藤貴男著 「安心のファッシズムー支配されたがる人々」 岩波新書

2012年05月16日 | 書評
巨大なテクノロジーとメデイアを駆使する新自由主義ファッシズム 第14回

5)社会ダーウィニズムと服従の論理 (2)
 これまで日本の中流社会は、世界で最も安全で吸収力のある社会であった。最近日本社会がギスギスして軋み音が激しいのは、小泉首相以来米国流新自由主義が浸透し、中流が2極に分解し貧困層の悲鳴が聞こえるからである。秋葉原事件など無差別殺人(米国では無差別銃乱射事件)が起きるのも新自由主義社会の特徴である。人口10万人あたりの犯罪認知件数である犯罪率は、1974年で1.1%であったのが2003年には2.19%と2倍になった。検挙率も60-70%あったのが20%近くに低下している。これには2001年に警察庁が犯罪認知の定義を変え全面ファイル化を行なう統計上のトリックがあり、なんでも犯罪とするようになったからである。警察庁は「犯罪への不安」を煽り立てているようである。異質な存在特に外国人への目が厳しくなった。何かを恐れる人はとりあえず強そうなものにすがりつく。その恐怖の胤を巻いているのが警察と自衛隊である。防衛白書で仮想敵国が明日にでも日本海を渡ってくるかのようなシナリオを書く。9.11以降アメリカの監視社会の現状を確認することは必要だ。「先ず抑制、ついで司法だ」というように、法にかける前に押しつぶせという姿勢が露骨になった。「愛国者法」は個人の権利侵害法であり、「国土安全保障法」創設はFBIやCIAの上を行く巨大な「特高警察国家」の開始である。同省の運輸安全局が導入を始めた「旅客機乗客事前識別システムCAPPSⅡ」は、国家のすべてのデーターベースにアクセスし、搭乗前に乗客の個人情報を入手する。2004年「旅行客追跡システム」はビザを持つ外国人すべての顔写真とシモン登録を義務つけた。国防総省は「ライフログ」プログラム、「全情報認知TIA」システム、住宅都市開発省の「ホームレス管理情報計画」、さらに「テロリスト識別データベース法案」も用意されている。資本の安全を守ることこそ国家の最大の役割となった。アメリカの高級住宅社会は昔から「ゲイテッド・コミュニティ」(城壁・警備門つきの高級住宅地)であった。
(つづく)

文芸散歩 4人の小説家による「文章読本」

2012年05月16日 | 書評
小説家の書く文章の心得とは 第17回

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3)中村真一郎著 「文章読本」 (新潮文庫 1982年)(1)
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 丸谷才一氏はその「文章読本」において谷崎潤一郎氏の「文章読本」を傑作として上で、わざわざ註を設けて「ただし中村真一郎氏の文章読本の前半はすこぶる示唆に富んでいて、この前半に関するかぎり、川端や三島の本と同格に扱うわけには行かない。」といっている。しかし私にとって中村真一郎氏(1918-1997年)の作品は記憶に残っていない。そこで中村真一郎氏のプロフィールを勉強する。中村真一郎氏は東京帝国大学の仏文科を卒業し、堀辰雄、加藤周一や福永武彦らと知り合った。早くから創作を志し、福永・加藤たちとともに「マチネ・ポエティク」のグループをつくり、押韻定型詩の可能性を追求した。『死の影の下に』から始まる長編五部作は、中村を戦後文学の旗手の一人として認知させることになった。60年代から70年代前半にかけて、『源氏物語の世界』『王朝文学論』『建礼門院右京大夫』『日本古典にみる性と愛』評伝『頼山陽とその時代』などの古典評論も刊行した。王朝文学からはじまる日本文学史全体を視野に入れた、『色好みの構造』『王朝物語』『再読日本近代文学』などの作品を生んだ。遺作となった『木村蒹葭堂のサロン』にいたる創作活動は、最晩年には性愛の意味を文学的に探った『女体幻想』となった。中村が最後まで関心をもちつづけたのが、小説の方法であった。欧米の「20世紀小説」と呼ばれた文学動向に関心をもち、それを日本語の小説に生かすことを、終生の課題とした。大衆小説家というよりは、学者肌のひとであった。したがって本書「文章読本」の前半はたしかに文章読本のようなものであるが、半ば以降はいわば日本近代文学史というべきものである。
(つづく)



筑波子 月次絶句集 「初夏江村」

2012年05月16日 | 漢詩・自由詩
春去江堤長蕨薇     春去り江堤に 蕨薇長じ

夏来麦隴一鵑飛     夏来り麦隴に 一鵑飛ぶ

窓前垂糸藤花落     窓前糸を垂れて 藤花落ち
 
雨後如争早筍肥     雨後争う如く 早筍肥ゆ


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(韻:五微 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)