医療に関する提言・レポートfrom MRIC by 医療ガバナンス学会(2011年5月1日) 「谷口プロジェクトを支えよう」 松本慎一 ベイラー研究所 より
谷口プロジェクト「福島原発作業員のための自家末梢血幹細胞採取保存」という提案がなされているが、これに対して日本学術会議は「利点は認めるが、現在従事している作業員に事前に実施することは不要かつ不適切と判断する」というステーツメントを出したそうだ。これに対して谷口プロジェクトを支持する舛添氏は菅首相に「人命軽視」と抗議したそうだ。何か自民党政府の時代に還ったかのような錯覚を覚える。結局は政府が誰であろうと、官僚の筋書きに従う政権担当者の見識のなさを曝露している。官僚=政府は白血病の発生リスクを前提とした作業安全対策を出せば作業者が集まらないので原発冷却と閉鎖作業が停滞すると心配していることが本音である。その政府の意向を権威で潤色するため曲学阿世の学者達の学術会議は「血液採取保存の利点を認めながらも、証拠エヴィデンスが十分でないことで不適切な行為」と判断している。ところが未曾有の治療にはエヴィデンスのある治療なんてそもそも存在しない。それでは治療の前進がない。エヴィデンスとはコントロール(治療をしないグループ)に対して効果ありとする実験のことをいうのだが、治療をしないグループに対して倫理上の問題がある。新規治療はエヴィデンスの前には常にコンセンサスで動くのであって、エヴィデンスを楯に治療を拒むのは自分の手を縛るものである。ステーツメントとしては、①強く勧める ②勧める ③勧めるだけの根拠がない ④行なわない事を勧める の4段階がある。今回の場合ステーツメントとしていえることは③勧めるだけの根拠がないまでであって、「不要・不適切」という積極的否定をいうには「害がある、または全く無効である」とのエヴィデンスが必要である。治療を選択するコンセンサスは作業員自身が決めることであって、日本学術会議という権威が発言することではない。それこそ発言することの政治性が疑われる。