ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

文藝散歩 坪内稔典著 「正岡子規ー言葉と生きる」 岩波新書

2011年03月13日 | 書評
言葉に生きた明治の群像 子規評伝 第1回

 坪内稔典氏はいうまでもなく俳人である。そして子規(1867-1902年)とおなじ愛媛県生まれである。1972年立命館大学文学部を卒業し、高校教師をしながら正岡子規の俳句に目覚めたという。園田学園女子大学助教授、京都教育大学教授、京都教育大学附属京都中学校校長などを歴任。正岡子規や夏目漱石の研究で知られるが、俳人・歌人としても活躍。俳句グループ「船団の会」代表を務める。現在は京都にある仏教大学の教授である。私は坪内稔典氏の著作は岩波新書の、 坪内稔典著 「季語集」(岩波新書)、坪内稔典著 「俳人漱石」(岩波新書)を読んだ。そして本書が3冊目である。岩波新書で活躍する俳人はめずらしい。「e船団」のホームページを覗いてみると、何か庶民的な、そして分りやすいキャッチコピー的な句が楽しめる。本書は講談社版「子規全集」に依拠して、子規の文・俳句をまず冒頭において進める評伝風の「小話」(3-4頁)を時代順に並べてゆく手法である。読み切り風の短文であるので読みやすい。言葉にしのぎを削った俳人の文章は、論を展開するのではなく、短くて人の心に落ち着くのである。掲出されている子規の文は小学校の作文から、妹律の回想文、小学校時代の回覧雑誌の雑報、「漢詩稿」、中学校時代の演説文、友人への書簡、大学予備門時代のノート「筆まかせ」、詩歌集「七草集」、東京大学文学部時代の俳句「啼血始末」、「読書弁」、漱石宛の書簡、木曾紀行文「かけはしの記」、「獺祭書屋俳話」、新聞「日本」俳句時評「芭蕉雑談」、新聞「小日本」小説「月の都」「間遊半日」、五百木瓢亭宛書簡、「俳諧大要」、新体詩「父の墓」、新聞「日本」連載「松羅玉液」、「俳人蕪村」、「病床日記」、「歌よみに与ふる書」、百人十首、河東銓宛書簡、「ホトトギス」、「小園の記」、はがきうた、伊東左千夫宛書簡、「墨汁一滴」、「命のあまり」、「仰臥漫録」、「病床六尺」、「絶筆三句」などである。私は子規の本としては「仰臥漫録」、「病床六尺」しか読んでいない。したがって、たとえ1節だけでも子規の書に出逢えるのは子規への理解が広がった気がする。これが読書の手始めとしては重要なのである。
(つづく)

読書ノート 近藤宣昭著 「冬眠の謎を解く」 岩波新書

2011年03月13日 | 書評
シマリスから冬眠特異的蛋白質(HP)の発見への道 第8回

2) 冬眠特異的蛋白質(HP)


 1960年代冬眠物質HIT(Hibernation Induction Trigger)の発見と騒がれた時があったが、冬眠実験の不確かさから決定打を欠いたまま下火となった。それは外国の科学者がジリスが何度も冬眠するので判定に困ったようだ。そして冬眠中に新たに発現される遺伝子についてくまなく探索されたが結論は出なかった。筆者は冬眠物質はホルモンのような情報伝達物質に違いないから血液中に存在するはずだと確信したという。冬眠中のシマリスからの採血は困難を極めたが、血漿中のたんぱく質の液体クロマトグラフィーで、非冬眠と冬眠中の分子量分画の比較を行なった。すると冬眠物質なら新たな分画が発見できると期待するのが常識だが、なんと冬眠中の血漿にはピーク減少となった。これをどう解釈するかで研究方向は違ってくる。減少した冬眠蛋白分画と非冬眠蛋白を集め。それを電気泳動にかけた。非冬眠蛋白には55KDaと他の3種の蛋白(20KDa,25KDa,27KDa)であったが、冬眠蛋白分画には55KDaが消失していた。アミノ酸配列から55KDa蛋白はαアンチトリプシンに似た蛋白で、3種の蛋白(20KDa,25KDa,27KDa)は末端配列にコラーゲンに似た配列があり、三重ラセンを構成していた。これら4つの蛋白は全て新しい蛋白質であったので、冬眠特異的蛋白質HPと名づけた。遺伝子配列は北里大学の協力で行なわれ、HPは肝臓で生産されていることが分った。同じリス科のタイワンリスではHP遺伝子は持っていたが、遺伝子の一部が変更を受けてm-RNAが作られていなかった。睡眠の中枢は脳にある事から、脳の血管中ではなく脳脊髄液中にHP蛋白が見出されなくてはならない。脳室には血液脳脊髄液関門があって血球などは出入りできないが、脳内に物質が運ばれる脳脊髄液で満たされている。そして脳脊髄液中のHP濃度が冬眠していない時期に較べて、数十倍に跳ね上がっていた。冬眠が始まり睡眠が深くなるにつれ、血液では急激に濃度がへり脳では急激に増加した。HP蛋白質の阻害物質と考えられるHP55KDaがはずれて、脳脊髄液中にはHP20KDaが活性化されていた。ではこのHP20cを破壊すると冬眠から醒めるのだろうか。蛋白HP20cの抗体を兎で作成し、脳脊髄液中に注入する中和実験を行った。赤外線カメラで体温変化を見た。冬眠期間を前、中、後期と分けて抗体を脳内に入れると、前期と後期には確実に冬眠を覚醒できたが、中期だけは効果が一定しなかった。これは中期ではHP濃度が高いためであろうと考えられた。これからHPは冬眠になくてはならない物質であると結論された。
(つづく)

CD 今日の一枚 ムソルグスキー 「展覧会の絵」ほか

2011年03月13日 | 音楽
①ムソルグスキー 「展覧会の絵」 ②ムソルグスキー「はげ山の一夜」 ③ボロディン「中央アジアの草原にて」 ④ボロディン「韃靼人の踊り」
ダニエル・ナザレス指揮 スロバキア・フィルハーモニー管弦楽団
DDD 1987 Pacific Music

ムソルグスキー(1839-1881)、ボロディン(1883-1887)はロシア国民楽派5人組みのふたりである。「展覧会の絵」という題名は、標題音楽にしろ10枚の絵画の内容まで想像することは原理的に不可能だ。1874年の作品