ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 中村桂子著 「自己創出する生命」 ちくま学芸文庫

2011年01月20日 | 書評
生命の普遍性と多様性の源としてのゲノム論 第8回

3) 生命と進化

 生命誌では発生分化(development)を「個体発生」、進化(evolution)を「系統発生」と区別する。生命誌では進化という言葉を使わないで「生命の歴史」と捉える。38億年の生命の歴史をゲノムの変化としてみると、遺伝子は本質的に保守的である。それは命に関るような変異は直ちに死に結びつくため、そのような変異は保存されない。生き残っている生物の中にある変異は殆どが「中立」(命にはかかわらない程度)であるのが当然である。生命の歴史は丸山茂徳・磯崎行雄 著 「生命と地球の歴史」にもまとめられているように、中村氏は原核細胞、真核細胞、多細胞、中枢神経系の成立の4段階が重要であると指摘している。生命の起源の詳しいことは分らないが、化学進化としてみる見解が趨勢であろう。生命体の誕生後にDNAが先かRNAが先でホットな議論がある。その他、光合成能、陸上への進出、カンブリア紀の種の大爆発、大絶滅など興味ある話題が一杯である。だから生物学は面白い。細胞生物学としては、内膜系、細胞骨格、物質代謝でエンドサイトーシス、エキソサイトーシス、性の分化と減数分裂、細胞死などの話題も豊富であるが、詳細は省略したい。遺伝子量は大体ヒトの30億塩基数が限界の量であるが、植物には36倍体などのハプロイドでは数兆塩基数もある。約5億年前に遺伝子の臨界点に達したカンブリア紀の種の大爆発が起って、恐らく現在の生物から想像もつかないようなへんてこな生物が生まれたらしい。それらは全て絶滅して今日の数千万種くらいに落ち着いている。ゲノムのダイナミズムとは、ファミリーの重複構造、組み合わせ選択方式などで多様性が生み出されてきたらしい。
(つづく)

医療問題  「東大医科研の良心を問う」朝日新聞社説を検証する(2)

2011年01月20日 | 時事問題
医療に関する提言・レポートfrom MRIC by 医療ガバナンス学会(2011年1月18日)「東大医科研ガンペプチド臨床試験は人体実験か?」 難波紘二 広島大学名誉教授 鹿鳴荘病理研究所  より(2)

 社説がいう「ヘルシンキ宣言でも謳われている。ナチスドイツによる人体実験の反省からまとめられたものである」という内容を含むのは1964年の「ヘルシンキ宣言Ⅰ」であろう。そこには前文とⅠ基本原則、Ⅱ専門的処置を含む臨床研究、Ⅲ非治療的臨床研究からなり、ナチスドイツが断罪されたのは「非治療的臨床研究」を「被験者の同意なく」おこなったからである。医科研臨床研究はⅡ専門的処置を含む臨床研究に相当し、ナチスの犯罪とは接点がない。そして社説が「研究者の良心が問われる」ということはいわれなき誹謗である。ところで「ヘルシンキ宣言Ⅰ」はとっくに廃止されている。朝日新聞はどの「ヘルシンキ宣言」の事を根拠にしてナチスの犯罪行為と同一視しているのだろうか。「ヘルシンキ宣言Ⅵ」が[人を対象とする医学研究の倫理原則」では「患者からインフォームド・コンセントを得た医師は、まだ証明されていない、または新しい予防・治療方法が、生命を救い健康を回復しあるいは苦痛を緩和するという望みがあると判断したら、それらの方法を利用する自由がある」という医師の裁量権を認めている。医科研臨床研究が「ヘルシンキ宣言Ⅵ」に触れる点は何もない。治験中の合併症は臨床の現場ではよくある事で、問題は適切な処置をしたかどうかである。合併症・副作用が起きたら間違った治療を施したことではない。薬に毒の効果がある事と同じで、事象に対する適切な処置が患者との信頼関係を作るのである。「ヘルシンキ宣言Ⅵ」のどこをどう読んでも、ナチ医学犯罪を想起させる条項は見当たらない。とすれば、それらの事を知りながらあえて「ヘルシンキ宣言Ⅵ」の細部は隠して誤解の連想を誘起させる大衆煽動テクニックであろうか。新聞,雑誌,テレビの共通していることは、大衆の曝露趣味と俗悪趣味をくすぐりながら興味を惹き、一定の予見と独断からなるストーリをかぶせてゆくメディアの世論誘導法である。これを捏造といわずして何と言おう。厚生労働省局長村井氏に対する検察特捜部のやり方も,根っこは同じである。スクープを狙い功を焦るあまり、善良な相手を極悪人に仕立て上げる手法は検察と同じである。

文藝散歩 永井荷風著 野口富士夫編 「荷風随筆集」 岩波文庫

2011年01月20日 | 書評
永井荷風の江戸文学趣味と淫靡な世界 第38回

Ⅳ)花柳界風俗小編 (2)
猥褻独問答
人猥褻を好まばよろしく猥褻の戒むべき事を知るべし。奨励や禁圧は火に油なり。

裸体談義(昭和24年)
浅草の興業街に戦後はやりしものに裸体ダンス(ストリップ)がある。入場料は60円である。フランスのムーランルージュでは昔からやっていたこと。明治維新で突然西洋化して80年にして裸体の見世物が日本にも現れた。時代と風俗の変遷を観察するほど面白いものはない。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「銀世界」

2011年01月20日 | 漢詩・自由詩
陰雲黯黯遂寒来     陰雲黯黯と 寒を遂て来り

千里稜稜雪意催     千里稜稜と 雪意催す

脉脉気凝銀世界     脉脉と気凝り 銀世界

玲玲江冷玉花台     玲玲と江冷に 玉花台

 
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(韻:十灰 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 ジョージ・ガーシュイン 「ラプソディ・イン・ブルーほか」

2011年01月20日 | 音楽
ジョージ・ガーシュイン 「ラプソディ・イン・ブルーほか」
①「ラプソディー・イン・ブルー」 ②「パリのアメリカ人」 ③「ピアノ協奏曲 へ長調」
アンドレ・プレヴィン指揮 ピッツバーグ交響楽団
DDD 1984 PHILIPS


ミュージカルというかシンフォニック・ジャズを生み出したガーシュイン(1898-1937年)は1927年の作品「ラプソディー・イン・ブルー」で近代音楽の1頁を切り開いた。