Senboうそ本当

広東省恵州市→宮崎県に転居。
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「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー   高橋 秀実   2012年 新潮社

2017年08月23日 | 毒書感想(宮崎)

2014年にテレビドラマにもなってます。東大合格者数1位の超進学校である開成高校野球部のレポート。高校野球の常識を覆す大胆なセオリー・・・と言うと勇ましく聞こえますが 実際は「専用グランドが無い」「経験が無い」「運動センスが無い」「シゴキも無い」 持たざるもののイチかバチかの兵法。甲子園出場を目指すレベルではありませんが、平成17年に東東京予選ベスト16に勝ち進んだという実績あり。でもゆるい。こんな部活だったら野球経験の無い私(53歳)でもやれそう、入学できたらの話だけど。著者の高橋秀実は1961年生まれのノンフィクションライター(男性)。この他にもたくさん著作があり要注目です。
以下は本文からの抜粋。

 

 彼らは本当に勝ったのだろうか?
 あらためて開成がベスト16入りした際の戦績を調べてみると、次の通り。

1回戦/開成10-2 都立科学技術高校(7回コールド)
2回戦/開成13-3 都立八丈高校(5回コールド)
3回戦/開成14-3 都立九段高校(7回コールド)
4回戦/開成 9-5 都立淵江高校
5回戦/開成 3-10国士館高校(7回コールド)

 (途中略)

ーー開成は普通ではないんですね。
 私が同意すると彼は否定した。
「いや、むしろ開成が普通なんです」
ーー普通なんですか?
「高校野球というと、甲子園常連校の野球を想像すると思うんですが、彼らは小学生の頃からシニアチームで活躍していた子供たちを集めて、専用グラウンドなどがととのった環境で毎日練習している。ある意味、異常な世界なんです。都内の大抵の高校はウチと同じ。ウチのほうが普通といえるんです。常連校レベルのチーム同士が対戦するのであれば、『チーム一丸となる』『一生懸命やる』『気合いを入れる』などという精神面での指導も有効かもしれませんが、これぐらい力の差があると、精神面などではとてもカバーできません」
 よどみなく答える青木監督。普通の高校が異常な世界で勝つには、普通のセオリーではダメだということなのだ。

                     (1回「エラーの伝統」 より)

 

 開成打線で印象的だったのは実に多彩なバッティングフォームだった。ある選手はバットをホームベースの上に水平にかざし、そこで「正面衝突」をイメージしてから時間を逆戻りさせるように構える。他にも、左手だけでバットを持ち、十分な引き位置を確認しつつ、打つ瞬間にだけ右手を添える。全身の体重を前にかけて構え、ピッチャーが投げるモーションに入ると後ろに大きく体重移動して、全身振り子のようにフルスイングする。今まで見たことのない構え方ばかりで、ここにも一般的でないセオリーがありそうだった。
「打撃で大切なのは球に合わせないことです」
 青木監督はきっぱりと言い切った。
ーー合せちゃいけないんですか?
「球に合せようとするとスイングが弱く小さくなってしまうんです。タイミングが合うかもしれないし、合わないかもしれない。でも合うということを前提に思い切り振る。空振りになってもいいから思い切り振るんです」
 あの強烈なスイングにも「きっと合う」という前提が隠されていたのだ。

 (途中略)

どこかで合うからきっと合う。これも一種のギャンブル。一発当たれば儲けもの、なのだ。
「彼らはいいスイングを持っています。せっかくのスイングを僕はチームの事情などで小さくしたくない。スケールがもっと大きくなる可能性があるのに、その成長を止めたくないんです」

                     (1回「エラーの伝統」 より)

 

 残念そうに首を傾げる青木監督。守備を捨てて打線で圧倒するはずの開成野球は、守備が上手くなったら打てなくなったというのである。
ーーなぜ、なんでしょうか?
 監督は「うーむ」としばらく考え、こう答えた。
「ひとつ考えられるのは、バッティングの練習が増えたということですね」
ーー増えたんですか?

 (途中略)

「以前はバットを振る時間がものすごく限られていたんで、集中力があったんですが、今はなんとなくやっちゃっている感じなんです」
ーーそういう影響を及ぼすんですか?
「そうなんです。増えたといっても、もともと異常に少ないですからね。これくらいのことで起きてはいけない現象なんですが、実際には起こっているんです」
 超常現象のように青木監督は語った。

                     (2回「理屈で守る」 より)

 

 その点、同紙に掲載された開成の「抱負」は明快だった。
「プロ注目の投手と対戦し、力を入れている打撃をぶつけて打ち崩したいです」
 要するに強豪校撃破。開成だけが、いうなれば喧嘩腰なのである。
「野球に教育的意義はない、と僕は思っているんです」
 青木監督はきっぱりと言った。野球はゲームにすぎないと。
ーーそうですよね。
私がうなずくと監督が続けた。
「野球はやってもやらなくてもいいこと。はっきり言えばムダなんです。」
ーームダ、ですか?
「これだけ多くの人に支えられているわけですから、ただのムダじゃない。偉大なるムダなんです」
ーー偉大なるムダ?
「とにかく今の学校教育はムダをさせないで、役に立つことだけをやらせようとする。野球も役に立つということにしたいんですね。でも果たして、何が子供たちの役に立つのか立たないのかなんて我々にもわからないじゃないですか。社会人になればムダなことなんてできません。今こそムダなことがいっぱいできる時期なんです」
ーーしかし「ムダ」だと言い切ってしまうと、何のためにやるのかと・・・。
「ムダだからこそ思い切り勝ち負けにこだわれるんです。じゃんけんと同じです」

                     (4回「結果としての甲子園」 より)

 

「大体、僕らみたいに運動神経がない人間は、他の競技だったら、その運動神経のなさがモロに出て、やりようがなかったと思うんです。でも野球は違う。野球は運動神経がないならないなりにやりようがある。投げ方にしても打ち方にしても、ちゃんと考えることができるようになる。哲学してるみたいで楽しいんです」

                     (8回 『は』ではなく『が』の勝負 より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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