つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

戦う神父さん

2005-07-05 10:54:34 | SF(国内)
さて、ライトノベルを読もう企画第二弾な第217回は、

タイトル:天界に幸多からんことを
著者:斉藤英一朗
文庫名:ソノラマ文庫

であります。

企画立てた割には、最近のライトノベルを全然読んでいません。(笑)
ま、そこは自分の都合でスケジュールを変更した愚かなる相方に任せるとします。

今は懐かしきハイスピード・ジェシーの外伝です。
本編知らない方のためにちょっとだけ解説すると、謎の宇宙船の襲撃で両親を失った主人公ジェシーが生体宇宙船パオロンに乗って復讐の旅に出るというお話。
喋る宇宙船、可憐な少女、裏事情に詳しい整備士、犯罪組織の美女とパターンを踏襲したキャラの中で一人異彩を放っていたのが本作の主人公フォーク神父。
熱血派の主人公にはクールな二枚目半の相棒が付くのが王道ですが、この神父さん、設定からしてちと奇妙でした。

とりあえず、本作の解説をば。

銀河系内に厳然とした力を持つハートランド正教。
惑星ハートランドを総本山とするこの宗教は奇妙な教義を持っていた。
三階級ある神父の第二位――中級神父達による『昇華』である。

現世は不浄な世界であり、そこに生きる人間は生きながら罪を犯している。
死ねば罪を犯すことはなくなるが、それだけでは罪は消えず冥界に堕ちる。
天界に行く方法はただ一つ、厳しい修行を積んだ神父に導かれることである。

昇華させる必要のある者を見抜くことが出来る銀色の眼。
十万人に一人しか耐えられない厳しい修行で変色した銀色の髪。
修行と布教を兼ねて、中級神父達はたった一人で銀河中をかけめぐる。

フォーク・グリーン神父もまた、そんな中級神父の一人だった。
信仰厚き彼にとって罪人を昇華させることは至上の幸福である。
今日もまた、彼は罪深き魂に祈りを捧げる、「天界に幸多からんことを」

フォーク・グリーン神父の活躍(?)を描く中編集です。
命中すれば、ゆっくりと神経系を破壊して死に至らしめる強力な神経銃。
駆逐艦並の加速力と大型艦並の航続力を持つ小型宇宙船レオン・シップ。
神父専用の強力な装備の内部構造を記録したディスクを追う表題作他二編を収録していますが、敢えて細かい解説はしません。

本作の魅力はただ一つ――

神父様は格好良い

これに尽きるからです。

宗教家には本気で信じている者とそうでない者の二つのタイプがありますが、彼は前者に属します、重傷と言っていいぐらい。
さすが過酷な修行を経て中級神父にまでなったお方で、たとえ自分の身が危険にさらされても、神の意志なくば人を昇華させることはありません。
やってることははともかく中身は普通の人間なので、オフの日には酒飲んでたり、ナンパしたりもします……おいおい。(笑)

一般的には人殺し扱いされている神父ですが、身分は太陽系連邦が保証してます。
まー、深読みするとハートランドと連邦の間に癒着があるんだろうとは思うけれど。
フォーク神父個人に関して言えば女好きでそれなりに大人で格好良いので好きです。

探偵アクション物としては取り立てて見るべきとこはありません。
必殺仕事人のようなカタルシスもないです、悪人殺せばいいってわけではないので。
せっせと布教に励みつつ、自分の手で昇華させられなかった罪人の死を悼む神父様の微妙な心理をお楽しみ下さい。

今の時代、戦う尼僧とか戦う新婦さんとかの方がウケは取れるんだろうけど。(笑)