とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

当日の私

2012-04-30 22:25:47 | 日記
当日の私




「母と子」(1900年 シカゴ美術研究所蔵) メアリー・カサット (1845年-1926年 アメリカ 印象派)

フランス印象派の画家たちの中で活躍したアメリカ人女性画家。パリでドガを知って、印象派に参加。アメリカに印象派を広めることに貢献した。私はこの画家がたくさん描いている母子像に強い関心を持っている。特に授乳している母親の姿を描いた作品は私に強烈なインパクトを与えた。この画家の絵にはすべて温かい家庭の雰囲気が漂っている。


 銀座のルネサンス画廊。二人展が開かれている画廊です。私は、また、そこへ、島根の田舎から出てきました。私は主催者でもないし、展示スタッフでもないので、一人の客として少しの間そこに立ってずらりと並んだ二人の作品を見ていました。そして、出入りする見知らぬお客たちも見ていました。全く落ち着きませんでした。ただ、ときどき顔見知りの人が姿を現して私に声をかけてくれることが私を落ち着かせました。古泉堂さんも来ていました。私が案内状を出した人は予想通り一人も来ていませんでた。京子さんと佐山さんは胸に花をつけて忙しくさまざまなお客の応対をしていました。不思議なほどたくさんのお客が詰めかけました。このことは大成功の証左と言っていいと思います。古賀画伯はときどき私の傍に来て、主だったお客の説明をしてくれました。ありがたいと思いました。


 畝本さん、冴子さんが来ました。そう言いながら古賀画伯が指差す方向を見ると、車いすを押しながら入ってきた人がいました。初めて見る二人のその姿に私は緊張しながら京子さんの表情を注視していました。すると、京子さんは走ってその車いすに近づいて、丁寧に頭を下げていました。佐山さんも傍まで行って、これもまた丁寧に頭をさげていました。

 お父さんも来てくれましたね。古賀さんはそう私に小声でいいました。

 ほんとに、よかったです。

 畝本さん、いい雰囲気じゃないですか。

 そうですね。

 心の中はどうか分かりません。でも、貴方が心配してた場面は回避できそうですね。

 ええ、余計な心配でした。

 こんなに来てくれるとは思いませんでした。恐らく長洲さんが手を尽くしたのではと思います。客筋を見ていますと、絵の関係者が多いようです。画廊関係、画家仲間、大学の関係者とか友達、それにマスコミも来ているようです。・・・さすが長洲さんだ、ぬかりがない。

 冴子さんも相当動いているんじゃないかと思いますが・・・。

 そうだろうと思います。人脈がすごいですからね。

 で、この展示会は全体としてペイするでしょうか。

 ははっ、畝本さん、私には分かりません。でも、見てください、作品にポツリポツリと花が付いています。少しずつですが売れているようです。

 ああ、そうですね。よかった、よかった。

 えっ! 古賀さんは顔色を変えました。古賀さんが見ている入口からまた車いすに乗った人が入ってきました。白髪頭の上品な顔立ちのお方でした。

 独立展の審査委員長です。

 えっ、委員長さんですか。私がそう言い終わらないうちに古賀さんは入口の方へ駆けていきました。遠くから見ていると、古賀さんは何度も頭を下げて、随分と気を使っているようでした。それから古賀さんは二人を手招きして呼びました。二人は緊張した表情で駆けていきました。

 すごい! これはどうなっているんだ。思わず私は呟きました。・・・もう帰ろう。私には縁のない世界だ。私は少しも関わることのできない世界が次々に展開するのでどっと疲れが出てきました。

 そうだ、長柄さんは来たのだろうか。それからお母さんの姿も見なかったが・・・。

 
 後日、古賀画伯に電話して聞きましたところ、長柄さんは私と入れ違いに来たそうですが、お母さんはとうとう来なかったそうです。
 
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読書する女

2012-04-29 00:22:47 | 日記
読書する女




「読書する女」フラゴナール ( 1732年-1806年 フランス ロココ)

 前回のアンドロメダの画像とは対照的な女性像である。この絵は複製が我が家にある。だからいつも眺めていた。
 しかし、長らく経ってから出してよく見ると、またまた化けていた。何と逞しい女性であることか。体躯ががっしりしていて、手にした本がおかしいほどちっぽけに見える。読書しているのだが、その若さのため心の中は躍動しているのである。それが眼の表情でよく分かる。心静かではない。若さは時に危うく見える。だから美しい。女性とはかくなるものだ、と納得させる作品だと私は考えている。・・・京子さんの今の心の中を、この絵と前回の絵は象徴的に表現していると思った。


 二人展の作品はすべて発送されたと古賀画伯から連絡がありました。

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アンドロメダ

2012-04-26 23:37:53 | 日記
アンドロメダ




「アンドロメダ」ギュスターヴ・ドレ (1832年-1883年 フランス  ロマン派 )



 エチオピアの王女である母カシオペイアは、娘アンドロメダが、海のニンフ・ネイレスたちより美しい、と自慢した。
ネイレスを気に入っている海の神、ポセイドンはこれを聞いて、怒った。海の怪物を送って、沿岸を荒らした。王は信託を伺った。アンドロメダが生贄として奉げられない限り、怒りは治まらない、ということであった。
 アンドロメダは怪物の生贄になるために、岩に鎖でつながれた。そのとき、メドゥサの頭を袋に入れたペルセウスが、通りかかった。ペルセウスは、怪物にメドゥサの頭を見せて、石に変えた。
 ペルセウスはアンドロメダを妻に迎え入れた。アンドロメダは死後、天の星の仲間に加えられた。夫ペルセウス、父ケペウス、母カシオペア、海蛇とともに、星座となった。(「ヴアーチャル絵画館」の説明より)
 アンドロメダの姿はいろいろな画家が描いている。そのほとんどは苦悩しているアンドロメダの表情を強調して描いている。しかしこのドレの絵は顔の部分が暗く描いてあってしかと分からない。その代り、くねらせた体の線で旨くそれを表している。そこが素晴らしいと私は思った。
 『古事記』の中の三分の一は出雲神話だが、その中でもスサノオのオロチ退治の神話は有名である。スサノオはその後、助けた奇稲田姫・櫛名田姫(クシナダヒメ)と結婚するのだが、上記の神話と類似している点は以前から指摘されている。そういう類似性は因幡の白ウサギの神話にも言える。「東インド諸島からインドネシアまで、東南アジアには、爬虫類のワニの背をマメジカやある種のサルなどの小動物が渡るという説話が各地にあり、その関連が研究者により指摘されている。東南アジアのイモ栽培起源と同様の話が『古事記』にあり、山幸彦海幸彦の旱魃洪水の話も東南アジアに類話があり、『古事記』にはそうした南方系神話が混入している」と説明されている。(『Wiki』)

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居酒屋にて

2012-04-22 00:22:19 | 日記
居酒屋にて



アマン=ジャン 「ピンクのドレス」(1890年頃制作)

 私はこの画家についてはあまり知らなかった。しかし、この絵を見ていて、こういう淡く華やかな色彩で描く画家も珍しいのではないか、と思って注目した。フランス・アールヌーボーそのものを感じさせる色彩と造形である。私は絵画の装飾性ということをこの絵から強く感じる。装飾性と言ったのは何も低く見ている訳ではない。現代でここまで徹底して描ける作家は少ないと思っている。


 私はこの前電話した夜、長柄さんに大変心配をかけたようで、ある居酒屋に呼び出されました。


 ほんとにびっくりしました、何か悩みでも・・・、と長柄さん。

 ご免なさい。今までいろいろあって・・・、これでよかったのかどうかと思ったりしまして・・・。

 よかったか、悪かったか、私にもよく分かりません。でも、こういう形もあっていいんじゃないかと・・・。事実、二人は喜んでいます。私も嬉しいです。だから、もう後は努力次第だと思うんです。

 銀座でしょう、最初の晴れ舞台が・・・。

 そりゃ、大変な冒険です。でも、冴子さん、長洲さんがバックにいるんですから・・・。

 それですよ、それ。京子さんが何だか敵の本拠地に乗り込むような感じがありますね。

 畝本さん、貴方も見通しておられる通り、京子の本当の目標は大島俊太郎画伯です。今はまだまだですが、将来は分からないですよ。もとより負けん気の強い女ですから、今にのし上がっていきます。

 京子さんは素人目で見てもいいものを持っておられると思います。私も長年たくさんの絵を見続けてきましたので分かりますよ。しかし、何年かかるか分かりません。

 畝本さん、もうこうなってはあの新しい一家を見守っていくしかありません。

 そうですね。それに・・・。

 何ですか。

 冴子さんとお父さんが心配ですね。

 もう家には帰らないと言っているようです。経済的には困らないと思います。父親の世話も冴子さんがきちんとやってくれているようです。

 お父さんは家に帰りたいと・・・。

 そりゃ、気持ちはあると思います。でも、ちゃんと分かっていますよ。帰ったら面倒なことになることを。

 二人の結婚式には・・・。

 呼ぶか、呼ばないか・・・、そりゃ、二人で決めることですよ。

 ・・・。

 畝本さん、貴方は私が第一印象で感じた通りのお方ですね。

 と言いますと・・・。

 だから、真っ正直なお方だと・・・。

 ははっ、正直・・・ですか。

 そうです。その通りです。

 あの、ご免なさい。ちょっと意地悪になりますよ。

 ええ、どうぞどうぞ。

 あの、長柄さんは、私に、最初会ったとき、この家は、と言いますか、この家族が家を出てしまったことに関しては、何もあれこれ世間から言われることはなかったと・・・。

 はははっ、そうでしたですね。いろいろありすぎて驚いておられるんですか。

 ええ、驚きました。

 私の言ったことに嘘偽りはありません。・・・世間様にご迷惑をおかけするようなことは何もありませんでしたから。

 ま、それは、そうですが。

 ご不満ですか。

 いえ、いえ、そんな・・・。

 じゃ、お返しです。・・・畝本さん、貴方があの家、いや空き家に来られたとき、直感的にすごく孤独と言いますか、寂しいような印象を受けました。何かあると・・・。

 それは前言ったじゃないですか。

 繭籠り、ですか。

 そうです。そして羽化です。・・・でも、代わりに二人がやってくれそうです。

 いや、いや、まだ奥に・・・。

 いや、何にも・・・。

 例えば奥さんと、家族と・・・。

 ・・・仲が悪いとかですか。

 いや、ご免なさい。

 いえ、いいです。ご想像にお任せします。

 も一つ、貴方は京子に・・・。

 えっ、何ですか。

 いや、ご免なさい。言い過ぎました。

 ・・・。

 畝本さん、今までいろんなロマンスあったでしょう。

 大分酔ってらっしゃるみたいですね。

 ご免なさい。そうかもしれません。

 ・・・。

 じゃ、酒の勢いを借りてもう少し・・・。

 えっ。

 ありがとう。ありがとうごさいます。・・・実は、私が親戚としてもっと動くべきでした。感謝してます。


・・・私は長柄さんにこの夜言い忘れたことがありました。「・・・貴方は京子に・・・」と言われたときに、私は長柄さんの気持ちとは別のことを思い出していました。恐らく長柄さんは、私が京子さんに関心を持っているのではと思っていたのだと思います。私は、実は、写真のこと、京子さんに渡した写真のことを思い出していました。・・・京子さんへの関心、それもあったかも知れません、それより、京子さんは私の母に、写真の母に何となく似ているという事実でした。・・・これはもう誰にも言わない私だけの真実となりました。


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エンディングノート

2012-04-17 23:25:21 | 日記
エンディングノート





「オレンジ集め」(1890年作) ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(1849年-1917年イギリスラファエル前派)



 ウオーターハウスの絵の中でもこういう生活感溢れる作品は珍しいと私は思っているがどうであろうか。オレンジを食べながら座っている女の子のあどけない表情が心を捉える。母たちは今収穫に余念がない。だから、相手をして貰えない。しかし、オレンジを食べていると安心感がこの少女を支えるのであろう。「永遠なる母子」。その姿をこの絵にも私はしかと見る。
 「した、した、した・・・」。洞窟の中に水がしたたる音である。この擬音語を私は心の奥で聞いている。折口信夫の「死者の書」に出てくる言葉である。無念の死を遂げ、古墳の中の深い眠りから覚めた大津皇子。その目覚めに感応した貴族の娘藤原郎女(いらつめ)は、大津皇子の幻影を見つつ、次第にその存在に惹かれていく‥・。いずれ死を迎え、そしてこの絵の中の母娘も次の次の世に甦るのであろうか。・・・極端に飛躍しているが、私は人物画を見る度にそういうことを考えてしまう。ごめんなさい、あなたたち。
 今、私は「二人展」の案内状を書いている。百枚ばかり引き受けた。そして、だれに出そうか迷っている。そして、どういうメッセージを添えるのか、そういうことにも迷っている。家族、親戚、知人・友人、かつての同僚、お世話になった方々、かつての生徒たち。百人に絞るのは難しい。しかも、会場は東京である。出しても行ってくれるであろうか・・・。まるで私の遺言をいかに伝えるかという気分になっているのである。もうこれが最後の私のイベント。これからこういう興奮は二度と訪れることはないだろう。よくぞここまで漕ぎ着けた。若い世代へのバトンタッチ。そのときにどんなメッセージを届けたいのか。

 
 もしもし、長柄さんですか。・・・私は心を落ち着けるために電話しました。夜中でした。

 畝本さんですか、びっくりしました。・・・どうしました。何かあったんですか。

 いや、何にも・・・、ただ、長柄さんの声が急に聞きたくなって・・・。

 そうですか・・・、成功しますよ。そう考えるしかありません。

 そうですね。ごめんなさい。

 いや、いいですよ。実は私も興奮してて・・・。

 ああ、そうですか。・・・今、私、葉書書こうと思って。

 明日になさったら・・・。

 そうですね。

 ええ、年を取るといけませんね。

 ええ、ええ・・・。


 私は長柄さんの声を聞いて、少しは落ち着きました。


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