とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

仙女の涙

2012-12-22 22:30:40 | 日記
仙女の涙




 出雲市大社町にある出雲の阿国の墓所

 有吉佐和子の『出雲の阿国』の大作が阿国の生涯をリアルにまとめているのでその姿が出雲の阿国の実像のように思われている。しかし、諸説があり、生まれたところや没したところの特定には確証がないというが真実のようである。有吉佐和子の著述による物語がベースとなった演劇や映画が作られると、創作性が強いとは言え、現在のところ物語としては大きな光を放っている。
 出雲の国から大坂に出稼ぎに来て、念仏踊りをしていた阿国たち一行は、秀吉の御伽衆の梅庵の目に留まり、来客の接待用に召し出される。梅庵の知人からお呼びが掛かって出向いたり、そうでなければ大坂や京の都で興行する生活。梅庵の指図で阿国たち一行の宰領を預かった三九郎の稽古や、同じく梅庵の許で知り合った傳介から流行りの小唄を教わるなどして、演出などにも工夫を凝らす。武家や富裕な商人から拝領の南蛮念珠を首にかけ、流行の傾き(かぶき)者を装ったことから、阿国歌舞伎として名を高めて行き、やがて女御前子から「天下一」とのお墨付きも与えられる。・・・前半はこのようにまとめられている。私はこの作品は名作だと個人的には思っている。墓所についても出雲と京都の二か所あるが、それはそれで謎めいていて面白いと思っている。


 中村仙女の一行が出雲に到着しました。出演者の中で主だった役者たちは最初佐田町の須佐神社で祈願し、その後、大社町の墓所に参りました。案内役は古賀所長と佐山医師が務めました。随行者は郁子さん、笙子さん、京子さん、それに冴子さん。私と長柄さんも後ろについて歩きました。
 墓所に着くと仙女さんと数人の女の役者が墓の前に整列しました。整列し終わると仙女さんの仕草に合わせて全員が合掌しました。そして、これから念仏踊りを奉納いたします、という仙女さんの声掛けに応じて全員が口々に念仏を唱えて踊りだしました。一回円を描いて踊り回ると、なあまみどー、と合掌して拝みました。そういうゆっくりとした動きを数回繰り返して、またもとの位置にかえって整列して深く頭を下げ、一同の礼拝は終わりました。私はその姿の華麗さにじっと見入っていました。傾き者という言葉からは想像もつかない美しさでした。

 これで長年の思いを叶えることができました。みなさん、ありがとうございます。仙女さんがそう言うと、古賀さんが、これから出雲大社にご案内致します。と一行を促しました。

 古賀さん、大社へのお参りは今日はご遠慮致します、と仙女さんが言いました。古賀さんはびっくりした感じで、仙女さんを見つめました。

 私はまだまだ芸の道半ば、各地を巡って修業しております。大社へのお参りは芸道を極めてから、・・・いや、その日が来るか分かりませんが、いずれ必ずお参りさせていただきます。

 あっ、そうですか、と古賀さん。

 私は、中村という歴史ある尊いお名前を引き継いでいます。阿国さんの姓と同じです。私はこの名前を頂いている限り、舞台の役者として道を深める大きな仕事が続きます。どうか、ご理解をいただきたいと・・・。

 わ、分かりました。

 墓前に立って一層中村という名前の重さを感じました。・・・私はこの地で阿国さんは亡くなられたと信じています。・・・ですから・・・ですから・・・私も・・・この大社の地を終の住処に致したいと思っています。仙女さんの目が潤んでいました。  

 


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