
3日目、近現代文学コースです。
三島由紀夫「金閣寺」は、実際にあった鹿苑寺「金閣」の放火・焼失事件に取材した作品です。主人公の溝口が寝起きをしていたのが、「書院」です。「小書院の南向き、中庭に面した五畳の納戸が私の部屋である。」と作品には書かれています。老師が寝起きをする「方丈」のすぐ裏、3間ほどの長さの渡り廊下の先に「書院」はありました。今回、特別拝観中とのことで、作品の叙述の詳細を確認しながら見学することが叶いました。

梶井基次郎は、第三高等学校の学生として、学生生活を京都で送りました。代表作「檸檬」は、その生活の体験から生まれた散文詩のような短篇小説です。舞台となっているのは、寺町通りから下ってくる界隈ですが、主人公がレモンを求めた「八百卯」も寺町通りにあります。残念ながら既にお店は閉めておられますが、看板は営業されていた当時のままに残されています。主人公は、ここで買ったレモンを丸善の美術書売り場に置いてくるというわけです。単純なストーリーでありながら、色彩感覚に溢れた詩的な作品です。

その日私はいつになくその店で買物をした。というのはその店には珍しい檸檬が出ていたのだ。檸檬などごくありふれている。がその店というのも見すぼらしくはないまでもただあたりまえの八百屋に過ぎなかったので、それまであまり見かけたことはなかった。一体私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈(たけ)の詰った紡錘形の恰好も。―結局私はそれを一つだけ買うことにした。それからの私はどこへどう歩いたのだろう。私は長い間街を歩いていた。始終私の心を圧えつけていた不吉な塊がそれを握った瞬間からいくらか弛んで来たと見えて、私は街の上で非常に幸福であった。あんなに執拗(しつこ)かった憂鬱が、そんなものの一顆で紛らされる―あるいは不審なことが、逆説的な本当であった。それにしても心という奴は何という不可思議な奴だろう。(梶井基次郎『檸檬』)









