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アルコールは発ガン性物質

2009年07月30日 | Weblog


飲み過ぎによる健康被害はいうまでもありませんが、
適度のつもりでも、摂取によって発ガン率が上昇することを既にWHOが検証していたとは…




以下、国立病院のウェブから転載致します。





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アルコールと発癌
                                横山 顕 
                                国立病院機構久里浜アルコール症センター 
                                臨床研究部長

はじめに
WHO の International Agency for Research on Cancer (IARC) は、 2007 年 2 月の会議において、アルコール飲料が口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、肝臓癌、女性の乳癌、直腸結腸癌の原因であり、アルコール飲料に含まれるエタノール(以下アルコール)自体に発癌性の十分な証拠があると結論づけた (1) 。アルコールはアルコール脱水素酵素( alcohol dehydrogenase: ADH )によりアセトアルデヒドに酸化され、さらにアルデヒド脱水素酵素( aldehyde dehydrogenase: ALDH) により酢酸へと代謝される。 IARC は、 ALDH 欠損者において、アセトアルデヒドが食道癌の原因に寄与するという非常にたくさんのメカニズム上の証拠があることも認定し、このことがアルコールの発癌性の根拠の1つにもなった。

アルコール依存症男性の内視鏡癌検診(口腔・咽頭・食道・胃・大腸)
久里浜アルコール症センターでは 40 歳以上のアルコール依存症男性入院患者全例に上部内視鏡検診を行っている。口腔・咽頭から内視鏡で丁寧に観察し、食道は食道ヨード染色という方法で観察している。 3500 例の初回検診では、食道癌を 4.1% 、口腔咽喉癌を 1.1% 、胃癌を 1.5% の頻度で診断し、多くの癌が表在癌であった (2) 。 20 %以上のアルコール依存症患者で前癌病変である 5mm 以上の大きさの食道異形成も診断された。この食道異形成患者を追跡観察すると、口腔・咽頭・食道のいずれかの部位に 5 年で約3割の患者で初期癌が発生した (3) 。食道ヨード染色なしでは食道異形成の診断は不可能であり、食道のごく初期の癌の多くも見逃されてしまう。口腔・咽頭の観察もその気で観察しなければ診断できるものではない。アルコール依存症患者では一般内視鏡検診とは異なる内視鏡検診の技術と心構えが必要である。

久里浜アルコール症センターでは 40-69 歳の男性入院患者には大腸内視鏡検診も積極的に行っている。アルコール依存症男性では、2人に 1 人は大腸腺腫(腫瘍性ポリープ)があり、4%で大腸癌が診断される。検便の潜血反応に頼らずに大腸内視鏡検診を受ける価値は十分にある。

いずれ臓器の癌も無症状患者の癌検診のため、約8割は内視鏡で切除可能な初期癌の状態で診断している。

ALDH2 の遺伝子多型とアルコール代謝と発癌
アルデヒド脱水素酵素( ALDH )には複数の種類があるが、 ALDH2 と呼ばれる酵素が最も重要なアセトアルデヒドの分解酵素である。4割の日本人は ALDH2 の活性を欠損している。 遺伝子の組み合わせが欠損・正常のヘテロ欠損者( 35% )と、欠損・欠損のホモ欠損者( 7% )では正常者( 58% )と比べ、日本酒1合相当の飲酒実験で6倍、 19 倍のアセトアルデヒド血中濃度を生じる (4) 。そのため 、 ALDH2 欠損者は少量飲酒で顔が赤くなるフラッシング反応を起こし (5) 、少ない飲酒量で二日酔いにもなりやすいことも近年証明された (6) 。 ホモ欠損者は下戸であるが、ヘテロ欠損者では大酒家になりにくいとはいえ、職場やサークルなどで鍛えられているうちに耐性が生じる。日本酒換算で3合以上毎日飲酒する大酒家男性の2割以上、アルコール依存症者男性の1割以上は ALDH2 ヘテロ欠損者であり、高濃度の発癌性アセトアルデヒドに暴露される食道や下咽頭では発癌リスクは極めて高い (2, 図1 ) 。久里浜アルコール症センターのデータでは、 ALDH2 ヘテロ欠損の 40 歳以上のアルコール依存症男性では 15% 以上に初回検診で食道癌が診断され、初回検診で癌がなくても、その後の5年間に 30% 以上の頻度で食道や口腔・咽喉に癌が発生している (3) 。 ALDH2 欠損の飲酒者の食道発癌は、複数の研究から安全な量と無いようであり、特に日本酒換算で 1.5 合以上の飲酒での発癌リスクは著しく高い (7) 。女性の大酒家でも同様の現象が報告されている (8) 。最近の研究では、食道と連続する下咽頭癌のリスクも、 ALDH2 欠損の 1.5 合以上の飲酒者で著しく高まることが報告されている (9) 。

食道と口腔・咽頭・喉頭の多発重複発癌と ALDH2 欠損
国立がんセンターの食道癌手術患者では、他臓器重複癌の割合が、 1969-80 年は 6% 、 1981-91 は 22% 、 1992-6 年は 39% と急増した (10) 。重複癌が発生する臓器は主に、口腔・咽頭・喉頭・胃である。久里浜アルコール症センターのアルコール依存症者では 1979 年にはヘテロ欠損者は 2.5% しかいなかったが、 1986 年には 8% 、 1992 年には 13% となった (11) 。この間にもともとアルコールに弱い体質のひとの飲酒量が著しく増加した可能性がある。重複癌増加は ALDH2 ヘテロ欠損の飲酒家が増加したことと関連しているのかもしれない。食道癌患者や口腔・咽頭・喉頭癌患者では、同時性、異時性にこの領域に多発重複癌が高率に発生し、 ALDH2 欠損者でその傾向が著しいことも日本の研究で一貫して報告されてきた (2) 。

簡易フラッシング質問紙法
簡易フラッシング質問紙法(表1)で、 ビ-ルコップ1杯で顔が赤くなる体質が、現在または飲酒を始めた最初の 1-2 年のいずれかにあったと答えたひと( フラッシャー)は、約 90% の感度・特異度で ALDH2 欠損者である。この方法を用いて遺伝子解析に匹敵する食道癌のリスク評価ができる (12, 図1 ) 。毎日 1.5 合以上飲酒するフラッシャーの食道や下咽頭の発癌リスクは極めて高く、 40 歳以上の男性であれば、飲酒習慣を変更することと専門家による内視鏡検診を受けることを勧めたい。

ADH 1 B の遺伝子多型とアルコール代謝と発癌
アルコール脱水素酵素( ADH )には複数の種類があり、 ADH1B (旧名 ADH2 )と呼ばれる酵素には遺伝的にアルコール代謝速度が遅い低活性型分解酵素がある。試験管の中での実験では、低活性型酵素は高活性型酵素の 40 分の1の低速度でアルコールを分解する。生体内の実験では ADH1B が低活性型のひとでは、高活性型のひとよりアルコール分解速度が 13% 遅く (13) 、さらに大量に連日飲酒するアルコール依存症患者では、飲酒翌日にまで高濃度のアルコールが残って非常に酒臭いのはこの低活性型のひとである (14) 。約1割の日本人では ADH1B が低活性型であるが、低活性型のひとは大酒家になりやすく、アルコール依存症患者では約3割が低活性型である (15) 。つまり ADH1B が低活性であると同じ量の飲酒でもアルコールが体内に長く残るため耐性や依存性が発生しやすく大酒家やアルコール依存症になりやすい。

この低活性型 ADH1B は飲酒量の増加を介して発癌に関連するが、同程度に飲酒した場合は、低活性型のひとのほうが 1.6 - 8.4 倍の危険性で腔咽頭や食道の癌になりやすいことが日本、台湾、タイ、中央ヨーロッパの8つの研究で報告されている (2) 。愛知がんセンターの食道癌の研究だけが関連なしとしている。アルコールに発癌性があり、低活性型の飲酒家ではアルコールが長く体内に留まるのであれば、低活性型のひとの飲酒が発癌性を高めても不思議ではない。残念ながらこのように発癌性に重大な影響を及ぼす ADH1B の体質は、現在の知識では遺伝子解析以外の方法では推測不可能である。

ALDH2 欠損型と ADH1B 低活性型の最悪の組み合わせ
この遺伝子型の組み合わせは日本人の 2-3% に過ぎないが、日本人の約 5 割を占めるいずれの遺伝子も持たないひとと比べて、同程度に飲酒したとすると 30-40 倍も食道癌や下咽頭癌になる危険性が高い (2) 。さらに悪いことに、 ALDH2 欠損者の多くは飲酒で不快な反応を起こすフラッシャーであるが、 ADH1B 低活性型もあると、アセトアルデヒドの初期産生がゆっくりでフラッシング反応が起こりにくく、赤くならずに自分は酒に強い体質と錯覚しながら飲酒量が増えていく傾向がある (12) 。

アセトアルデヒドの発癌メカニズム
アセトアルデヒドを実験動物に吸引させると発癌し、ヒトでも飲酒によるアセトアルデヒド暴露で DNA 損傷が発生する。 ALDH2 欠損のアルコール依存症患者の白血球 DNA を調べると発癌性のある DNA -アセトアルデヒド複合体が、 ALDH2 正常のアルコール依存症患者より高いレベルで検出され (16) 、 ALDH2 欠損の飲酒家では ALDH2 正常の飲酒家より染色体の異常 (17) や発癌性と関連する微小核小体 (18) も高率に検出される。口腔内では常在細菌がアルコールを分解してアセトアルデヒドを産生するため、唾液のアセトアルデヒド濃度は血液の濃度の 10 前後も高濃度であり (19,20) 、 ALDH2 欠損者でのさらに 2-3 倍の高濃度になる (20) 。このように、口腔、咽頭、食道はアセトアルデヒドの高濃度で暴露され、発癌するものと考えられる。

赤血球の MCV は食道・口腔咽喉の発癌リスクの予測に役立つ
大量飲酒者や、食道発癌のリスクが著しく高い中等量( 1 日 1.5 合以上)以上飲酒する ALDH2 ヘテロ欠損者では、赤血球の MCV が大きくなる傾向がある (20) 。 MCV 増大は、喫煙、加齢、栄養不足でも起こり、食道癌と共通背景を持つ。アルコール依存症男性の中では、 MCV ≧ 106 fl で食道癌リスクは 2.8 倍になる (21) 。ヘテロ欠損型 ALDH2 と低活性型 ADH1B と MCV ≧ 106 fl の組み合わせで食道癌リスクは著増する (21) 。 MCV ≧ 106 fl のアルコール依存症患者を内視鏡で追跡検査すると、 5 年で 20% 以上の患者で食道・口腔咽喉癌が診断され、ハザード比でのリスクは MCV<106 の人の 2.9 倍であった (3) 。 MCV やフラッシング質問紙法の結果を組み合わせると、食道癌リスクの高い群を高感度で指摘できる (22, 表2 ) 。 大酒家の栄養不良と発癌
やせはある種の癌の危険因子であり、アルコール依存症患者でも、やせたひとで食道癌のリスクが高い (3,21) 。緑黄色野菜や果物を毎日食べるひとでは、消化管癌を含む種々の癌が少ない (7) 。大量飲酒は DNA 障害を起こす活性酸素やフリーラジカルを発生させるが、抗酸化作用や DNA 修復に関わる種々のビタミンは発癌を予防すると考えられている。 MCV は葉酸欠乏で顕著となるが、葉酸は DNA 合成や修復に重要な働きを有し、その欠乏は大腸癌のリスクを高めるという報告が多い。栄養不良による免疫能の低下も発癌の一因となる。

アルコール依存症患者に胃癌が多い理由
疫学研究では胃癌と飲酒との関連を示すものが特にアジアで散見されるが、証拠としては未だ限定されたものでしかない (1) 。しかし、久里浜アルコール症センターの内視鏡検診では胃癌の頻度が 1.5% であり、内視鏡胃集検全国集計の 0.2% より著しく高い。アルコール依存症は H.pylori 感染による慢性萎縮性胃炎を促進する。この集団の胃癌患者には ALDH2 欠損、 MCV 増大、口腔咽喉食道の同時性癌も多く、食道発癌と共通する背景因子が見られる (24) 。また喫煙、栄養不良、免疫能の低下などの関与も疑われる。

口蓋、咽頭、食道のメラノーシスと癌と ALDH 2
アルコール依存症患者では口蓋、咽頭、食道に高頻度でメラニンの色素沈着(メラノーシス)が見られる (25) 。メラノーシスは食道異形成や食道咽喉の癌と並存することが多い。その理由はメラノーシスと腫瘍が、 ALDH2 ヘテロ欠損者、ヘビースモーカー、高齢者という共通背景を有しているためである。いずれのメラノーシスも内視鏡で容易に観察されるが、口蓋メラノーシス(特に硬口蓋と軟口蓋の境界付近の外側)は、普通の視診でも診断でき、簡便な腫瘍マーカーとなりうる。

女性の乳癌と飲酒
疫学研究では飲酒と女性の乳癌との関連を示す十分な証拠が示されている (1,26) 。 53 の研究を集積した解析では、エタノールで 10g 増加する毎に乳癌リスクは 7.1% 増加すると報告されている。その発癌メカニズムでは、飲酒によるエストロゲン増加や葉酸代謝への影響が推測されているが未だ明快な説明はない。

結腸直腸癌と飲酒
結腸直腸癌と飲酒の関連も疫学的に十分な証拠があるが、乳癌ほど研究が一貫したものではない。しかし、量-反応関係は多くの研究で正の関係にあり、有意ではない研究も多いが、負の関係を示すものはほとんどなく、全体での解析や総合的な評価から WHO は 2007 年に十分な証拠があると結論づけた (1) 。かつてはビールとの関連が強いという研究が注目されていたが、その後の研究を総合するとアルコール飲料による差はみられない。

飲酒と肝臓癌
本邦の肝臓癌の主たる原因はC型とB型肝炎ウイルスであるが、アルコールはウイルスとは独立して発癌を促す。大酒家ではC型肝炎ウイルス感染から肝硬変に至るまでの期間が短く、より若年で肝臓癌が発生する傾向にある (27) 。アルコール性肝硬変からの単独発癌はウイルス性肝硬変ほど高頻度ではないが、 10 年で約1割は発癌すると推計されている。アルコール性肝臓癌患者は、大酒家の特徴を反映して ALDH2 正常者が多く、口腔咽喉消化管など他臓器の癌を重複することが多い (28) 。


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