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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

生駒市の中学校で起きた熱中症死亡事故に思うこと

2016-09-06 11:51:31 | 受験・学校

部活中の熱中症死亡「不適切指導」 無給水でランニング(朝日新聞デジタル、2016年9月6日)

http://www.asahi.com/articles/ASJ955KL7J95POMB00T.html

おはようございます。・・・というか、気付けばもうお昼ですが。

まずはこの件、亡くなった子どものご冥福をお祈りします。

それから、部活動中の熱中症死亡事故が起こりやすいパターンのなかに「ランニング」、特に「罰」としてランニングを課すことがあります。

これはもう私が川西オンブズに居た頃、つまり1990年代末頃からスポーツ医学関係者から言われていたこと。

たとえば武藤芳照・太田美穂『けが・故障を防ぐ部活指導の新視点』(ぎょうせい、1999年)には、「事例から見る部活動の問題」のなかに、「先生、水を飲ませてください―高校野球部員の熱射病事故―」が含まれています。

ここでは、ある年の8月半ばの午後、盆地の多い県の公立高校1年生サッカー部員が、練習を前日休んだことの「罰」として、水を飲まずに約35度の炎天下、1時間近く走らされて熱中症(当時の言葉で「熱射病」)を発症し、亡くなったという事例が紹介されています。

ちなみに、同じ本の巻末にある「図解 応急処置のポイント」にも「熱中症の予防と手当」の項目があります(ただ、内容が古いので、今だとこの「予防と手当」にはもっといろんな知見が得られるはずですが)。

このように、スポーツ医学関係者が書いた部活指導の本ですけど、90年代末の時期から「どうすれば熱中症を防げるか?」については、いろんな提案が行われています。

また、「罰」としてランニングを暑熱環境下で課すことの危険性も指摘されてきたわけですね。

この生駒市の中学校のケースの場合、このニュース記事によりますと、当該のハンドボール部には複数の顧問がいるなかで、一応、別の顧問は暑熱環境下での練習に配慮して、こまめな水分補給を指示していたようですが・・・。

でも、当日の練習を見ていた顧問には、それがよく伝わっていなかった様子。

さらに、この当日の練習を見ていた顧問は、練習中に走るのを早めに切り上げた生徒たちを「ごまかした」と判断して、追加で走らせたともあります。

「演技するな」「ごまかしてもあかん」等の発言が、部活顧問から熱中症で倒れる前の子どもたちにかけられるケースが過去の重大事故事例でもありましたが、今回もそのパターンをなぞっている感があります。

このようなケースがあることも考えて、文科省「学校事故対応に関する指針」をつくるときに、学校の設備・施設の安全点検だけでなく、私からは「教職員の指導のあり方や子ども理解の見直しも大事だ」と言って、そういう項目を入れていただいた次第です。

ですから、調査・検証作業のポイントも、この顧問どうしの連携のあり方、当日の練習環境とメニュー、子どもの状態に関する当日の顧問の理解等々にまずは焦点を当てていくことになるでしょう。

もちろん、顧問のスポーツ事故防止に関する研修受講の有無、事故防止に関する意識のありようなども気になるところです。

と同時に、事故が起きたのが「8月16日」ということにも注意が必要です。

お盆休みで数日練習を休んで、久々の練習ということも考えられます。

からだを徐々に練習できる状態にもっていかなければならないのに、無理をさせてしまった・・・ということも考えられます。

夏休み中の練習スケジュールなども調査・検証のポイントになります。

そして、この学校のスポーツ部活のあり方全体ですね。この学校のスポーツ部活は特に熱心に指導を行っていたのか。

また、熱心に行っていた背景として、この学校の生活指導面での課題はなかったのか。

さらに、大会運営等のスケジュールとの兼ね合いに無理はなかったかとか。

なにしろ別の顧問がこの日、他の生徒を試合に連れて行ったというような記述がこのニュース記事にありましたから「どんな大会? 練習試合?」というあたりも気になりますね。

ということで、これから生駒市教委は第三者調査委員会を立ち上げるとのこと。

こういった点を教職員及び子どもの双方からていねいに話を聴いて、なおかつ、ご遺族として気になる点もふまえた上で、調査委員会がきっちり調査・検証作業のなかで詰められるかどうか。

そこが、私としてはとても気になるところです。

ただ、1~2週間程度、作業が遅れている感はなきにしもあらずなのですが、生駒市教委として、学校側による基本調査(初動対応)のあと、その結果を示した上で、詳細調査(第三者調査委員会による対応)という形で、文科省の「指針」に即して動き始めていることはわかります。

今後はこの第三者調査委員会がどういう形でたちあがり、どのように運営されて、どのように事実経過の解明と再発防止策の提案が行われるのか。

また、そのプロセスでご遺族の意見や要望等がどの程度反映されるのか。

そこを見守りたいと思います。

もちろん、第三者調査委員会の運営等に関して、必要があれば「お手伝い」をさせていただく準備があることは、あらためていうまでもありません。

ついでにいうと、起きてはほしくないことが大前提ではありますが、重大事故が起きたときに、すぐに上記のような「調査・検証のポイント」を示して、現場に出動できるくらいのスタッフが常駐(それもできれば複数居る状態に)していないと、重大事故の調査・検証作業ってすすまないでしょうね、今後。

子どもの重大事故の調査・検証のシステム整備を主張するみなさんが「本気で」その必要性を主張されるのであれば、常駐での人員配置の必要性とその人員の訓練・研修等々について、せめて、このくらいのことは言わないとダメですよ。

そして、ご遺族や被害者家族、あるいは市民のみなさんは別として、特に子どもの事故防止にかかわる諸領域の専門家については、調査・検証のシステムが必要だというだけでは、もうダメだろうと思います。

また、それを言うだけで(国や自治体など)「誰かやってくれ」的な議論ではもっとダメで、チャンスがあれば「その調査・検証、自分がやってみせる」くらいの覚悟も必要かと思います。


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