世川行介放浪日記

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中島みゆき『トーキョー迷子』

2011年09月10日 02時37分58秒 | 自選 純愛16年記


       中島みゆき『トーキョー迷子』


 僕は、この4年間、書きなぐりの粗(あら)い文章を、ここに毎日掲載してきたが、
 粗いものではあるけれど、中には、愛着のある文章も、幾つかある。
 もし、誰かに、
「お前は、自分の書いた文章の中でどれが一番好きか」
 と聞かれたら、
 「歌謡曲篇」の『あの場所から』という文章だ、と答えることだろう。

 去年の8月に書いた文章だ。
 自分で書いた文章であるのに、時々、そこを開いて読む。


 昨日も読んだ。
 読み始めると、途端に、
 真夏の千葉県八千代市勝田台の駅裏周辺の光景が、鮮やかに浮かび上がってきた。

 『地デジ利権』を書く直前から1年半ほど、八千代市界隈を転々とした。
 もう、一生のうちに二度と行くことのない町なのだが、
 僕には、貧しさと幸福感とが入り混じった思い出深い町だった。
 八千代台に半年いた。
 職のないまま痛風にかかって、痛い足を引きずりながら、市役所に生活保護を受けに行ったら、
 まだこの日記を始める前だったが、
 提出した通帳の送金額が多くて、拒絶されたことがあった。
 それから、<4駅先の女>のいる勝田台に移った。
 そこでの暮らしは、貧しいけれど、幸福だった。

 勝田台と佐倉市との境目の大通りに安い鮨屋があって、
 1ヶ月に1回くらい、マージャンで勝ったりしてお金が出来ると、二人で行った。
 僕は、鮨を食べる時、小皿いっぱいにわさびを入れて食べる癖があり、
 人様から、「なんて品のない食べ方だよ」、と嘲笑されるのだが、
 それは、16年前、この女が僕に教えたものだった。
 駅からその店までの行き帰りが、僕たちの一番楽しいひと時だった。
 去年の夏の日も、そんな楽しいひと時になるはずだったのに、
 その店に行く最後となった。

 あれから、もう、1年が過ぎたのだ。


 僕は、この世でたった一人の<戦友>とでも言うべき<4駅先の女>が、
 オーバーステイをやめて韓国に帰った時、
「こいつも普通の世界に戻っていくのか…、」
 と、肩から力が抜け、
 それから、「~国民会議」や「1万人集会」に向けて走りはしたが、
 心の奥底に、一抹の寂寥感を覚え続けてきた。

 あれから、本当に、もう、1年が過ぎたのだ。


 死んだ脚本家笠原和夫が、以前、
 やくざの女房(ばした)が、「ひとっ風呂浴びてくるよ」と言う時は、
 やくざの亭主が必要なお金をつくるために女郎屋に身を売りに行く時だ、と書いていた。
 そのさっぱり感が何故か印象に残って覚えているのだが、
 笠原和夫のエピソードとはまったく関係なく、
 僕は、いつも、
 軽く、
「おい。仕事でちょっと遠くに行ってくるぞ」
 それだけを言って、
 大阪へ、北陸へ、新宿へと、
 行けば半年以上は帰らないような放浪に出て、女を放ったらかしにして過ごした。

 音信不通のまま、半年ぶりとか1年ぶりに、女の働く店の扉を開けるのだが、
 女は、一回も、嫌な顔を見せたことがなかった。
「また、馬鹿やっていたの?
 今度は、どこの女よ。
 もうおじいさんなんだから、いい加減であきらめなさいよ」
 そう言って、僕をからかった。
「まだ、まだ」
 僕も笑って答えたものだった。


 中島みゆきの歌に、『トーキョー迷子』というのがあって、
 たまにカラオケでうたった。


        ここで待っておいで すぐ戻って来るよ
        言われたように そのままで ここにいるのに
        気にかかってふらり 待てなくってふらり
        歩きだして そのせいで なおさら迷子
        1年2年は夢のうち まさかと笑って待てば
        3年4年は洒落のうち 数えて待てば
        5年かければ 人は貌だちも変わる
        ましてや男ましてや他人 今日もトーキョー迷子


 この歌を聴くと、
 女が、よく言った。
「私の歌だね」
 そう。いつも待たせるだけだった。


 僕は、58年間も生きてきたわけで、
 <夏の記憶>も、
 Mとの再会の夏、
 Sとの別れの夏、
 歌舞伎町でのセイとの夏、
 といった風に、
 歳に見合った数くらいは持っているのだが、
 この数週間、
 吾妻橋界隈のどこを見ても、
 去年の夏の、うだるような勝田台の歩道の光景がよみがえってきて、
 懐かしいような、まぶしいような、恋しいような、
 そんな様々な感情の交錯に困惑させられた。
 

 8時過ぎ、外に出たら、
 夜風に秋の匂いが混じっていた。
 夏も終わるのだ。

 遠ざかる夏の背中に、何かを書き留めておきたいと、
 そう思って、
 とりとめのないことを書いてみた。




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