なみもよう

詩やら短歌やらをかきます

楽園の樹の下で 2

2017-05-18 15:44:16 | 短編小説
同じクラスの隣の席、窓際に座る彼女は、いつもその窓から遠くを見ていた。特定の友達がいるわけではなく、浮いているわけでもない、不思議な存在。それが彼女。

窓から風が入るたび、その髪がしゃらりと揺れた。刈りたての緑の匂いにまじって、なにやら甘い香りがした。

窓からぼんやりと外を眺めたきりのその頭を、チラチラと伺う。浅く、ため息。教師が入ってきて、思考を彼女から引き離した。




「藤原ってさ」

帰り道、いつもの男連中でつるみながら、ぽつりと吐き出した。

「藤原って、なんか、いいよな」

漠然とした吐露。

「ぶは、思春期だなぁ」
「そうかーお前のタイプは藤原かー」

友人たちはからかった。

「なんだよ、悪いかよ」
「良いも悪いも、藤原って影薄いじゃん」
「そうそう」

影が薄い。そうか?

「そう、か」

たしかに、目立たない。どこか、別の次元で息をしているような、そんな雰囲気。

「でも気になるんですかー!」
「恋ですかー!!」

絡む友人たち。あしらいながら、家を目指した。



最初は小さな違和感。そうして彼女を見続けているうちに、気付いたことがあった。
彼女の体に、見えるような見えないような微妙な場所を選んで、大小の傷があることだ。

制服の半袖の、華奢さに余る袖の内側に、真新しい火傷のあとを見つけてしまったのは、授業中だった。

「あっ……」

思わず立ち上がると、椅子が倒れた。しん、と静まり返る教室。

「どうした?」

「あの、保健室」

冷や汗を流しながら、彼女の肩に手を置いた。

「うっ」

彼女は痛みに呻いた。

「あの、藤原さん、怪我してるみたいで、保健室に」

「そうなのか、藤原」

「えっと、……はい」

「そうか、連れてってやれ」

「はい」

僕は彼女の手を引いた。友人がひゅーひゅーと冷やかしていた。彼女の手は震えていた。
大股で歩く僕の後ろを、彼女は早足で着いてきた。

「………腕、酷いけど、なんで何もしてないの」

自分でも、もっと言い方があるだろうと思う、硬い口調だった。

「あっ……その、迷惑かけてごめんなさい」

「そうじゃなくて」

もどかしい思いが巡った。そうこうしているうちに保健室についた。保険医が、じろじろと僕を見た。

「彼女が、酷い火傷をしてて。偶然気づいて連れてきました」

じゃあ。そう言って保健室を出た。廊下を駆けるような早足で教室に戻った。

廊下の窓からは、刈りたての青葉の匂いがきていた。夏の入り口のことだった。
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